梅本来の旨味を引き出し、
より魅力的な美味に仕上げる。
「城州白と梅製品」

江戸時代から続く広大な梅林に実る奇跡の梅「城州白」。
そろそろ梅が楽しみな季節がやってくる。もちろん観梅の話ではない。食に携わる我々にとっては花より団子、収穫がピークを迎える初夏こそ梅のベストシーズンといえる。梅といえば和歌山が有名だが、江戸時代から広大な梅林を誇る京都府城陽市の青谷を外すことはできない。京都で梅の名所は少なくないが、生産を主とする果樹としての梅林となると青谷は最大規模を誇る。さらに幻の品種とも呼ばれる特産品の梅「城州白」が育つとあって、希少性に拍車をかける。どのような梅なのか?栽培と梅製品を手掛ける「青谷梅工房」の田中さんを訪ねた。
人々を魅了する高貴な香りと、とろける果肉。
もともとは小学校の教員だった田中さん。子どもたちと自然学習を行っていた際、減少が続く梅農家の現状を目の当たりにし「この素晴らしい梅を守りたい」と転身を決意。城州白を広め、地域を活性化する活動に専念したという。人生の岐路となった、城州白の魅力を伺った。
「城州白は、桃のような香りと杏ほどもある大粒な果実、やわらかな果肉で人気です」。
特に印象的だったのが香りの良さ。「香り成分を分析する会社で南高梅と比較してもらったところ、匂いの成分が違っていました。品種が違うのでどちらが優れているというものではありませんが、匂いの総量は城州白の方が多いと言われたのです。それが経験的に強く匂いを感じる理由かな」と田中さん。
もうひとつ興味深いエピソードがある。これまで南高梅しか使わなかったという京都の有名な梅干店が、一度城州白を試してみるとあまりのおいしさに虜になったとか。以来、城州白を毎年あるだけ仕入れるようになったというから、実力を思い知らされる。
化学調味料、香料、着色料は一切不使用。天然素材が生む「本物の味」。
まずは梅干しの生産からスタートした青谷梅工房。今では、梅びしおや梅シロップ、梅ジャム、梅ジュースなどラインナップが充実。製品はすべて無添加で手作り。だからこそ、城州白ならではの風味と香りがより際立つ。
「個人的な考えですが、市販されているほとんどの梅干しは調味料の味です。現代の人はこれに慣れているため、おいしいと感じていると思います」。田中さんは梅そのものの食味にこだわる。材料は梅と塩とシソのみ。昔ながらの製法だ。本来の梅干しを知らなければ「しょっぱい!」と驚くかもしれないが、わかる人にはこれが本物だとわかる。「ただし無添加なので、作る時の環境によって少し味が変わることもあります」。それもまた味のうちである。
梅を守るために栽培と需要拡大を両立。
放置された梅林を守るのも田中さんの大事な役割だ。梅はとにかく手がかかる。
これほど多忙でありながら、「城州白をもっと幅広い企業に使って欲しい」と奔走する。城州白への愛情はもちろん、農家を応援する気持ちも大きい。
単なる梅ならどこでも手に入る。しかし京都の梅となると青谷にしかない。そこへ注目したのが京都の一条寺ブリュワリーだった。2016年に完成した城州白のビールを皮切りに、様々な企業が城州白の商品を開発。おかきやゼリーなどが誕生し、好評を博している。それでも田中さんにとっては、まだまだ道半ばだ。
「城州白は酸味のほかに何とも言えない独特の旨味があります。無添加で素材を大切にするパートナーと、お菓子から惣菜まで幅広く商品開発ができればいいですね」。
城州白を中心に地域と企業と人が、ともに発展していけるような未来を描く。
[取材日:2022年4月18日]

田中さんは栽培者がなく、荒廃しそうな梅林を代わりに育てる。何をするにも作業しにくいのが難点だが、青谷の梅を守りたいという想いが気持ちを支える。今栽培しているのは、すべてこうした経緯の梅林だとか。

あま漬梅干しも、化学調味料を使わないでつくる。ここにも梅本来の味を引き出すためのこだわりが光る。

「城州白」を使ったお酒も誕生。2017年に発売された一乗寺ブリュワリーのクラフトビールをはじめ、京都蒸留所のジン「季の梅」や千葉県MITOSAYA蒸溜所のブランディがある。※青谷梅工房では販売していないため、購入先は梅工房のホームページを参照。


京のあられ処「橘屋」も、青谷梅工房の梅パウダーで人気商品を手掛ける(左)。最近も和束町のお茶と城州白がコラボした「ほうじ茶梅ゼリー(右)」が誕生した。地域全体で梅の需要拡大を図ることが喫緊の課題だ。

梅工房には多くの人が何かをやろうと集う。「こうした活動が地域の力になれば良いですね」と田中さんもアイデアを尽くす。去年の10月からは月に一度、蕎麦やお菓子を味わうことができる「梅工房の日」を開催。交流の場として親しまれている。
梅本来の旨味を引き出し、より魅力的な美味に仕上げる。「城州白と梅製品」
- 取材協力
- 青谷梅工房
- 〒610-0113 京都府城陽市中出垣内73-5
- tel&fax:0774-39-7886
- mail:umekobo@nifty.com
- https://aodaniumekobo.com/
[ 掲載日:2022年5月23日 ]