コーヒー豆

ロースター:巌 康孝さん
神戸市中央区元町

コーヒーの原料は、コーヒーの木になる種子。実を収穫し取り出した種子を精製させたコーヒーの豆は生豆(きまめ)の状態で出荷される。その生豆を焙煎し、細かく粉砕して水や湯で抽出することでコーヒーができる。

かように、コーヒーは農産物ゆえ、天候などの栽培条件に応じて成育に差がでるし、収穫すると時が経つほど鮮度は落ちていく。さらに、同じ生豆でも焙煎、粉砕、抽出、それぞれの方法によって味わいは異なる。日本の気候風土ではコーヒーの木は育たないが、焙煎しなければコーヒー豆にならないのだから、焙煎業者(ロースター)はコーヒー豆の生産者といえる。

ロースターのひとり、巌康孝さんは「飲食店でコーヒーを供するのなら、料理の食材に対するのと同じくらい気遣いが必要」と話す。焙煎した後、コーヒー豆は時間と共に劣化していく。保存方法から使用期間まで管理するのが望ましい。

鮮度を保つことはもちろん、お客さんにおいしく飲んでもらうための情報や選択肢はこれまでとは格段の差で増えている。今それほど世界のコーヒーは大きな変化を遂げているのだ。

契機は1990年代に確立されたスペシャルティコーヒー。特別な気象や地理的条件のもとで生産された高品質なコーヒーを指す。現在は「カップ・オブ・エクセレンス」という審査会で品評され、選ばれた豆はネット・オークションにかけられる。望めば買える流通の仕組みが整備されたことで一気に広がった。日本にもその動きは浸透しつつあり、巌さんはスペシャルティコーヒー世代を担う若手のホープとして注目されている。

巌さんは神戸の元町にコーヒー専門店「グリーンズコーヒーロースター」をかまえる(1階が焙煎所、2階がカフェ)。各国のスペシャルティコーヒー、「カップ・オブ・エクセレンス」の入賞豆などを取り扱う。

店の1階では大きな焙煎機が目につく。毎日、開店前に2〜3時間、カフェが休みの土日は半日以上まわす。巌さんは「途中で煎り具合や火加減をみたりで目が離せません」という。焙煎は加熱調理みたいなもので、熱して生豆の水分を抜き酸味を抑える。火で煎ることで香り付けにもなる。当然ながら、温度の設定や時間のかけかたなどの違いがそのままコーヒー豆に表れる。

また、抽出の方法によってもコーヒーの味にちがいがでる。巌さんはサイフォンでいれる。「サイフォンは、香りが強く引き出せ、味の輪郭をくっきり表せる。味に切れがあるんです。ボディ感というか中身のほうをしっかり出すのならドリップ。それぞれに特徴があり、どの方式がいいかは、好みですね」という。「ぼくは、飲むときの感覚、飲む人がどう感じるかを大事にしたい」

とは言っても、巌さんの基本は「程よい苦味とキレのよい後味、コクと香りをどう感じ取れるか」。豆に応じてそれぞれのバランスをみながら、「ストライク・ゾーンをねらって焙煎している」という。例えば、店のブレンドはブラジル、タンザニアの各単一農園の豆にマンデリンなど計4種を中深で煎ったもの。実際にいただくと、少し冷めてもエグみがなく味が濁らないのだった。

これからの季節は、中南米で収穫され精製された生豆の新豆が日本に届く、いわば旬の時期。 おいしく味わうためのポイントは鮮度のよさ。巌さんは料理人に「コーヒー屋さんとコミュニケーションをとり、鮮度を保つのはどうすればいいか、豆のことから抽出の仕方や入れる器具のことなど、なんでも相談してください」そして「スペシャルティコーヒーの微妙な差異をいろいろ楽しんでください」とメッセージを送る。

[2010年2月21日取材]

店の1階にある焙煎機。生豆を入れたドラムをまわしながらガス火の熱で焙煎する半熱風式。1回で4〜5キロが焙煎できる。
巌さんは、日本スペシャルティコーヒー協会認定の「コーヒーマイスター」。また、同協会主催のコンクールにおいて、サイフォン部門で2回優勝している実力者でもある。
元町の高架下にある「グリーンズコーヒーロースター」の前。土日はカフェは休みだが、1階でコーヒー豆などを販売。webショップでも購入できる。
GREENS Coffee Roaster グリーンズコーヒーロースター
神戸市中央区元町高架通3-167 TEL.078-332-3115
webショップ
http://www.greens-kobe167.jp/
*スペシャルティコーヒーの情報は「日本スペシャルティコーヒー協会」のHPへ
http://www.scaj.org/

[ 掲載日:2010年3月4日 ]