早どり玉ネギ

生産者:石割 照久さん
京都市南区吉祥院

石割照久さんは農家の10代目として先祖代々引き継いできた畑を守るだけでなく、「京都伝統野菜研究会」や「新京野菜の会」などでリーダー役を務めるなど、野菜作りの果敢な挑戦者としても知られる。

手がけるのは伝統野菜を含めて年間約70種。それに毎年、新しい品種が加わる。ロマネスコ(カリフラワーとブロッコリーの掛け合わせ)、紫色のブロッコリーや芽キャベツをはじめ洋物も数多く栽培。「京野菜でも作り方に工夫すれば、料理人がもっと使ってみたくなるものができる」と、かなり実験的な野菜作りにも取り組んでいる。例えば、九条ネギでは細いネギ、小さな葉ネギなどと作りわけしたり、煮ても色がつかない(黒ずまない)エビイモもできるという。

石割さんは、日頃から料理人と接し、情報交換を欠かさない。焼くのがいいか煮るのがいいか、または魚か肉かどちらとの取り合わせがいいかなど野菜の特性を踏まえた食べ方までを提案してきた。その結果、今では京都を含め全国の300近い料理店(ほとんどがオーナーシェフの個店)と契約。ほぼ毎日、採れた野菜を箱に詰めそれぞれの店に出荷している。なかには料理人からのリクエスト(味や色などを指定)に応え、品種を決め契約栽培もしており、実質はプロ向けの生産態勢にある。

野菜の作付けでは端境期になるこれからの季節、石割さんのおすすめは旬を先取りする「早どりの玉ネギ」。それもペコロスといった小玉の品種やミニ玉ネギ(子球)を早めに植えたのではなく、普通の玉ネギを石割流の栽培方法で育て小玉の状態で収穫するものだ。

玉ネギは一般に早生で3月、関西では5〜6月が最盛期、北海道産は9月頃までといった収穫のサイクル。だから、早くも2月に収穫できるところに価値がある。「直径5センチほどになったら早どりする。見ため以上に甘みがあり、香りも良い」と石割さん。

その「早どりの玉ネギ」をこんなふうに料理するのはどうか。「下は根を付けたまま、上には水分を飛ばせるような切り込みを入れ、塩して辛みを飛ばしながらソテーする。というか、火であぶるような感覚で焼く。すると、薄い果肉が外から順に、はがれるように開いていく。可憐な花が開いたようで、花切りの一品ができる」と石割さん。コツは上に入れる切り込み。四つ切りでは不足で、うまく水分を飛ばせるような細かい切り込みが必要などと料理人ハダシの話が続く。

畑を案内してもらうと、何種類もの品種が少しずつ並んで育てられているのに気がつく。「同じ品種でも、植える時期をずらしてみたり、与える肥料を変えてみたりと、これまでの経験を生かしていくつもの方法で栽培している」とのこと。

冬から春にかけては「内から活発になるような育て方で、甘みを増す」。夏には「強い日照にも耐えられる育て方で、酸味を増す」。詳細は企業秘密ということになるが、冬だからこそ味に深みをもたせ、夏だからこそさっぱりとした味わいになるよう、季節ごとに応じた育て方があるのだとも。

そうして、野菜という商品に差別化をもたらすのだが、石割さんは奇抜な野菜を作っているわけではない。冬の甘みや夏の酸味は、あくまで人の体が求めるもの。「自然に逆らわず、野菜本来の味をそこねず、少し強調することでおいしく食べてもらえるはず」。その少しのちがいに全力を傾ける。料理人が料理の相談をしに石割さんを訪れるというのも納得できるのだった。

[2010年1月21日取材]

畝はビニールでおおわれ、一株ずつ大事に育てられている玉ネギ。早どりに適した時期を見計らう。
この時期はまだ葉ものが収穫できる。ブロッコリーなどの洋もの野菜も端境期の大切な商品だ。

[ 掲載日:2010年2月6日 ]