自家製ハム・ソーセージ

生産者:メツゲライ・クスダ 楠田 裕彦さん

楠田裕彦さんは実家の精肉店で父がハムやソーセージを手作りするのを見て育つ。しかし、日本では高度成長期以来いつしか加工品(以下、ハムやソーセージのこと)はメーカー製品が独占。そんな事態に直面し、「あらためて肉の基本から勉強しよう」と思い立ち、南ドイツへ渡り、食肉加工のマイスターのもとで修業した。

ヨーロッパには日本よりもはるかに長い歴史に培われた食肉文化が根付いている。例えば、フランスには「シャルキュティエ」という食肉加工の専門職があり、ハムやソーセージだけでなくパテやテリーヌなども作る。ドイツで「メツゲライ」と呼ばれる食肉店はデリカテッセンを兼ねている。

「修業した店は朝早くから開けるんですが、すでにお客さんの行列。マイスターの製品はスーパーより割高なのをわかっていて、お気に入りのを少しずつ買って帰るんです」。「よく見ていると、おしゃべりを楽しんだり、店はちょっとした寄り合いの場になっている」。今も変わらぬメツゲライの役割を目の当たりにした楠田さんは、日本でも地元の人に親しまれる自家製加工食品の店を開きたいと思うようになっていた。

そして、肉のさばき方など基本から学び、ドイツだけでなくヨーロッパの各種食肉加工の技術を習得して帰国。さらに日本で飼育される豚肉にあわせて加工品が作れるよう試行を重ね、ようやく5年前、理想の店「メツゲライ・クスダ(現・六甲道店)」を神戸市灘区に開店させた。

素材の肉もヨーロッパ産と日本産とを比べれば、環境や育て方がちがうから肉質はもちろん加工品の味も自ずと異なる。楠田さんは次のように話す。ヨーロッパの肉は総じて野性味が強い。それに脂肪分の少ないところを使って加工するので肉の旨味が強くでる。対して、日本では加工品は軽くあっさりした味だが、脂肪を適度に混ぜて旨味を引き出すような作り方になっている。

楠田さんは、日本産の持ち味を生かしながらあくまでもヨーロッパ流の食肉加工品作りを目指した。客には食材の種類や産地、加工の仕方や作り方などをていねいに説明。これまでお目にかかったことのないハムやソーセージを試しに買った客は、味に魅了されてまた来店する。そうした繰り返しの結果、5年の間に楠田さんの加工品は評判を確実に広め、今やクスダ印というべきベーコン、ジャンボ・ブラン(白いハム)、モンペリアール(薫製ソーセージ)など人気商品も定まりつつある。

昨年9月にはイートインのスペースを設けた「メツゲライ・クスダ芦屋店」を開店させた。肉を熟成させるための貯蔵庫やレンガの窯などを導入し調理室も拡充。食肉加工品に加え季節にあった総菜など自家製食品がショーケースを埋める。「パンが好きな芦屋の人に、こんなハムやソーセージとの組み合わせはどうですかと提案していきたい」と楠田さん。

芦屋店ではランチタイムになると、近所にあるドイツパンの名店「ベッカライ・ビオブロート」のパンを使ったサンドイッチが並ぶ。志をもつ生産者同士のコラボレーションが、他では味わえないサンドイッチを生み出した。楠田さんは、着実に目指す道を歩んでいるようにうかがえる。

最近は料理人のなかにも楠田さんの食肉加工品が知られつつあり、取引も増えているとか。消費者に「メツゲライ・クスダ」の魅力が浸透していくと同時に、楠田さんには確かな食肉加工品を作る生産者としても活躍を期待したい。

[2009年12月14日取材]

放牧で飼育された信州産の雅豚を使用。2週間熟成させた腿肉1本まるごとハムになる「ジャンボ・ブラン」。
レンガの窯で3日間スモークして作るメツゲライ・クスダ特製「ベーコン」。厚みがあって食べごたえ十分。
ショーケースには、各種の食肉加工品の他、この季節にはジビエやキノコ、冬の野菜を使った総菜も並ぶ。

自家製ハム・ソーセージ

楠田さんのワンポイント・アドバイス
1:生ハムを食べるときは常温で。
・冷蔵庫に入れていても、食べる前に出して常温にもどすこと。手のひらに生ハムをのせ、脂肪を溶かせるくらいがいいとか。
2:ソーセージを焼くときは弱火でじっくり。
・火であぶるのが最適だが、弱火で時間をかけて焼くこと。表面を焼きながら肉汁を閉じ込めると、おいしくいただける。
3:ソーセージは煮込まない。
・これからの季節、ポトフなどにソーセージを使う場合は、いっしょに煮込まない。煮込むとソーセージの旨味が外に出てしまうから。
・ポトフができたら火を止め、そこにソーセージを入れ蓋をして10分ほど待つくらいでよいとか。
◆メツゲライ・クスダ六甲道店 / 神戸市灘区高徳町2-1-1 TEL.078-857-5333
◆メツゲライ・クスダ芦屋店 / 芦屋市宮塚町12-19 TEL.0797-35-8001
◆メツゲライ・クスダHP / http://metzgerei.exblog.jp/
◆ベッカライ・ビオブロート / 芦屋市宮塚町14-14-101 TEL.0797-23-8923

[ 掲載日:2010年1月5日 ]