河内鴨

アヒルは鶏と同じく古くから世界各地で食用として飼われてきた。北京ダックがその代表である。 大阪府松原市にある「ツムラ本店」はアヒルの飼育から食肉処理・加工・販売までを一貫して行なう。創業は明治初期。食用アヒルの飼育農家が淘汰されていくなか、関西に残る唯一の専門店といえる希少な存在だ。
5代目の津村佳彦さんは「アヒルは“家鴨”と書くように、もともとは鴨を家禽に改良したもの。長い年月にわたって交配を繰り返し、品種改良されてきた」と話す。「ツムラ本店」では現在、アヒルもアイガモも飼育している。「アイガモに合鴨の字をあて、世間に広げたのはうちの曾祖父なんです」。
今や市場に出回る鴨肉のほとんどがアイガモ。日本各地で飼育されているが、「ツムラ本店」では自家飼育のアイガモを「河内鴨」の銘柄で商標登録し、他との差別化をはかる。
鴨は元来、空を飛んで生息地を移動する鳥。そのため強い抗体をもち、病気になりにくい。「鶏みたいに抗生物質を投与しなくてもよいので、安心して食べてもらえる」と津村さん。さらに「無農薬飼料を与え、風通しの良い環境で平飼いする。昔ながらの方法だけど、それが結局は鳥を育てるにも安全な食肉を供給するにも最善の育て方」と話す。
こうしてすくすく育った河内鴨は生のロースがおすすめだ。一般的には孵化して平均50日前後で出荷されるが、河内鴨は75日飼育。時間をかけて育てられているから、脂肪分が適度に押さえられ、それだけ熟した肉質になるという。「朝どりの新鮮なのもいいが、3日ほど熟成させれば、さらにうま味がつく。フレンチでは1週間おいて料理しているところもあるようです」。
「ツムラ本店」では毎朝4時から解体が始まる。処理が済んで店頭に並べられるようになるのは正午前後。「小さいころからそばにいて、育ててきた者にしかわからない感覚を大事にしたい」こともあり、さばく技術に熟練した者は限られてくる。そのため、1日で200羽前後の出荷ペースが限度という。
加えて「お客さんと顔を合わせることで、もっとええもんにしようと頑張れる」という津村さんの思いもあって、出荷の大半が直販。毎朝1枚だけ買いにくる人をはじめ、多くの固定客がついている。購入者の約8割は料理人とのこと。その分、一般の人が市場でお目にかかる機会は少なくなる訳だが、かえってブランド価値は高まるばかり。河内鴨は知る人ぞ知る、まさにプロ向けの食材なのだ。
[2009年9月28日取材]





河内鴨
- 河内鴨が味わえる店
- ツムラ本店の河内鴨を扱う店は大阪府内で約80店になる。なかでも津村さんはリーガロイヤルホテル大阪1階にある「ナチュラルガーデン」の豊田正浩シェフを挙げる。「この間も食事に行ったら、河内鴨のスモークに生をトッピングした一皿が出てきて。河内鴨ならではの組み合わせに感動した」と教えてくれた。
[ 掲載日:2009年10月9日 ]