ハモ(鱧)

京都の祇園祭、大阪の天神祭が終わり、暑い夏の盛りを迎える。この季節、関西で欠かせない食材の代表にハモがある。生命力が強く、海と離れた京都では古来より珍重された海産魚であった(祭りのご馳走になった)こと。暖海性で関東以南の海でしか穫れないことなどから関東よりも関西で親しまれてきた。
ハモはウナギと同じ円筒形で大きいのは2mにもなる。アゴは長く、鋭い歯があり、獰猛な性格だから噛みつくなど扱いにくい魚である。そのうえ、硬い小骨が多い。料理するには、開いて、皮に近いところまで身に細かく切り込みを入れる「骨切り」という下ごしらえが必要で、手間がかかる。
もともとはプロの手にかかることで、その味や価値をより際立たせてきた魚だ。洗練されたハモ料理は高級料理として広く知られ、関西の伝統の味を伝えてくれるが、今や関西ではスーパーなどで手軽に買うこともできる。
淡路島で鮮魚卸を営む水口さんは、魚市場で仕入れた魚を料理店まで運んで納める「担ぎ」として知られる。得意先には「菊乃井」を筆頭に京都の名だたる料亭、料理店の名が並ぶ。6月頃からハモの扱い量が増え、いまは最盛期。
京都・東山に自店の水槽をもち、毎朝、魚市場で仕入れた鮮魚を運び込む。そして、前日から活け越しのハモを処理。血を抜き、脊髄に針金を通す神経締めを施して各店や市場へ配送する日が続く。
ハモの旬は夏場とは限らない、需要は12月頃まであるという。「松茸の土瓶蒸しに使われるように、秋口まで食べられる」。それほど「ハモはオールマイティの白身魚」と、水口さんは話す。「湯引き以外に、焼き物、煮物、鍋ものでもおいしい。ハモを肉がわりにすき焼きというのもいける」。
今や韓国産のハモも人気だが、もともと淡路島は「仮屋のハモ」を代表にハモの名産地として知られている。水口さんはそのなかでも良質のものを選り分けて仕入れ、得意先へ卸す。近年はフレンチなど日本料理以外の店との付き合いも増えつつあるとか。「頼まれれば、骨切りして納めたり、おいしく食べるためのコツを教えたり」することもある(あくまで、お得意に限る)という。
京都の料理人に信頼される水口さん。長年の経験から、良い魚を見分けるポイントは「頭が小さく目が小さいこと」。とくにハモでは「全体に黄色っぽく腹皮が厚いのが良い」と伝授してくれた。
[2009年7月25日取材]



ハモ(鱧)
淡白な白身魚には、良質なタンパク質、カルシウム、不飽和脂肪酸などが多いが、ハモは特にビタミンAが豊富。皮には老化防止に有効とされるコンドロイチンが多く含まれている。
[ 掲載日:2009年8月4日 ]