水ナス(澤ナス)

大阪泉州産の水ナスが関東で大人気である。ナスを手で強く握ると、実から水が滴り落ちる。そんな映像をともなって紹介されたこともあり、関東では見かけない瑞々しさが水ナス人気に拍車をかけたようだ。
そもそも泉州の水ナスは、貝塚市の澤地区が発祥と考えられている。室町時代に著され一般常識の教科書として知られる『庭訓往来(ていきんおうらい)』には「澤茄子」の記述が見られる。澤ナスは泉南地区で生産消費されてきた在来種のナスで、田の一画で栽培され、種が各農家で代々受け継がれてきたもの。夏の炎天下、農作業で喉が乾いたときには生のまま丸かじりしたとか。古い文献によれば、水ナスは「水菓」とも書かれている。つまり果実として位置づけられるほどにジューシーな甘さを持っているのだ。
しかし、その水ナスもここ10年で大きく変貌している。現在採れるものの多くは、昔のものに比べ、瑞々しさ、絹のような皮の柔らかさが随分と失われてしまっているのではないか、と気づいている関西の料理人も少なくないだろう。
今回は、水ナスのなかでも原種とされる澤ナスを生産する長谷川正博さんを訪ねてみた。長谷川さんの作る水ナス(澤ナス)は、泉州でも皮がやわらかくてうまいと評判だ。「一般の水ナスに比べ、皮色がぼけやすく病気にかかりやすい。ほんとに栽培するには難しいナスやが、味わいは最高。特に糠漬けにした澤ナスに比べられるものはないから」と、栽培のきっかけを話す。長谷川さんの澤ナスは漬物として加工されることが多かったが、近年は、水ナス本来の味わいを求め地元の日本料理店などからの注目も増えているという。
泉州でも皮がやわらかくてうまいと有名な澤ナス。長谷川さんは「澤ナスの特長は、果肉の旨さとミズミズしさにあります。一般的な水ナスは糠漬けにするのがうまいとされますが、澤ナスは椀物の具材として使ってもとても美味です」と話す。これが市販の水ナスと違ってあえて「上密(じょうみつ)」といわれている証なのです。ただ収穫後の劣化の激しさは一般的な水ナス以上。つまりこれこそ地産地消的なナスであるといえるものです。
実は泉州には水ナスの原種とされるナスが2種類ある。ひとつが馬場地区の馬場ナス。そしてもうひとつがこの澤ナスだ。いずれも水ナスの真価を知るには、絶好の食材だといえるだろう。
[2009年6月25日取材]



ナス
- ほとんどが水分で、主成分は糖質。夏野菜には体を冷やす作用があるが、ナスはとくに効果的。
- ナスの皮には抗ガンや老化防止の効果で知られるポリフェノールも多く含まれている。組織が粗い果肉は油と相性がよく、植物油で揚げると植物油に含まれるリノール酸やビタミンEの摂取に役立つ。
[ 掲載日:2009年7月1日 ]