兄弟で、総合力を高める

河野 浩さん(写真左)・河野 強さん(写真右)
「HINOKA」オーナーシェフ(写真左)・プロダクトマネージャー(写真右)

ミシュランガイドに2年連続掲載された『MAKIBI』を運営していた兄弟が独立。大阪・天満橋に2024年、薪窯のナポリピッツアが看板の『HINOKA』をオープンし、一躍人気店へ。オーナーシェフであり弟の河野浩さんと、プロダクトマネージャーであり兄の河野強さんに、店づくりについてお話をうかがいました。

独立してどんな店を作るのか

「イタリアン、特にピッツェリアは保守的な世界で、どこの店行ってもほぼ同じようなメニュー。それが少し退屈かも」「色々できると実力を誇示したいのか、ピッツアのメニューが多すぎてどれを食べてよいか一般人には難しい」という声に応えつつ、ピッツアは基本的に高単価商品ではないことを踏まえ、“飲んで食べて1万円以下で楽しめる店”が一番すんなりくると思えた、と話す河野強さん。それがこれまで携わってきた店でも評価された、いわゆるミシュラン ビブグルマンの層と被り、その価格設定の中でどれだけ個性を表現でき、どれだけキャッチーか、他店との違いの明確さが勝負になると考えたという。また「パスタやメインデッシュなどピッツア以外や食後のドルチェなどのメニューにも、きちんと注力した内容にし、大事な方との記念日やデートにも使える店をイメージしました」と河野浩さんも続く。
料理は、“伝統と革新”をテーマにし、よりクラシックに忠実な伝統的なメニュー、「犬鳴ポーク」「河内鴨」「カジキマグロ」など厳選素材を用いた革新的なメニューの両者を併せ持つ。他のお店では食べられない革新的なメニューとしては、「今の季節なら、白味噌と炙り鯖を使ったピッツアかな」と浩さん。京風の雑煮をイメージし、焼き鯖とモッツァレラをのせ、最後に凍らせた柚子を削った。オリジナリティー溢れる料理とはいえ、すっと馴染める味に仕上がっているのは、素材の組み合わせや使い方に土台や根拠があるため。しっかりとした料理として仕上がったピッツアを「“グルメピッツア”と呼ぶ人もいるんですよ」と兄弟は笑う。
最近では特に発酵と熟成を意識しているとのこと。牡蠣は塩発酵させた白菜をソースにしたピッツァにするなど、発酵食品の使い方もユニーク。また、鮮度のいい状態で仕入れた肉や魚を、塩とトレハロースを使って、脱水・熟成のためにウエットエイジングしているとのこと。肉は阿蘇のあか牛やガリシア栗豚などを使い、鮮魚は長崎の五島列島から直送の神経締めのものが中心で南伊勢や和歌山も開拓中とのことだ。また、関西食文化研究会のイベントで知った「氷温®」の温度帯を意識して、氷水の容器を作って鮮魚を個別熟成させて使用している。「手を掛けて美味しくする。本来、料理人がやらなきゃいけない仕事だと思い、力を注いでいます」と強さんは話す。

個の能力を活かし、役割分担で総合力アップ

例えば記念日でも使えるような店を作るため、ピッツア職人がいて、薪で肉が焼ける料理人やソムリエがいて、パティシエがいるようにしている。小さい店ながら個の能力と特徴を活かして役割分担をすることで、より多くの人にさまざまなシーンで楽しんでもらえるようなメニュー構成にしているとのこと。「お互いが持っている武器をいかせば、ピッツアが美味しくて、なるべく良い素材を使って基本的な技術をもとに、パスタやその他のメニューもちゃんと整えることができる。そんな“総合力が高い”イタリア料理店は、実はあまりないんですよ」と強さん。浩さんはピッツア職人として基本店を切り盛りする。兄の強さんは料理人だが、ソムリエとしてワインの管理を行いながら、今は経営に特化していっている。兄弟がタッグを組むことで、総合力が何倍にもアップしているようだ。
また、開店前に法人化し、「スタッフに対し、きちんとした労働環境を整えることを大事に考えています。弊社だけが得するわけじゃない。ちゃんとお客様も自分たちも業者さんや農家さんも、全て公明に“三方よし”であり続けるために、会社名を『株式会社サンポウ』としました」と強さん。「独立前に小規模で法人化してどうなの?と言われることもありましたが、人を雇う覚悟を持って、最初から社会保険や8時間勤務&4週8休もちゃんと整えましたよ」と浩さんは話す。

誰にとっても使い勝手のよい店へ

店は黄色い薪窯を中央に配し、キッチンも客席もゆったりと幅をとる。絶賛子育て中の兄弟だからこその、子供連れやファミリー層も使いやすく、との配慮があふれている。ベビーカーでもすっと入れ、年配客も利用しやすいベンチシートもある。子供が騒がしくても「その場合は、当店で僕らとともに食育をすればよいのでは?」と浩さんの理解ある言葉も。飲み放題付きのパーティーのプランもあるし、ピッツアのテイクアウトもできる。ワインも豊富に揃うので2軒目づかいもできる。「ターゲットを絞り切らずに、まずはどんな人にとっても使い勝手がよい店になること。それが地域に根付いた愛される店づくりだと思います」と強さん。その言葉通り、友人や同僚、家族を誘って、明日も行きたくなるような店に仕上がっているのだ。

河野 浩(こうの ひろし)プロフィール

家具や建築へ進んだが、父母と同じ料理の道へ。調理師学校卒業後、大阪のピッツェリアにて修業開始。ポルトガルのピッツェリアにて海外修業も経験。バリスタ資格を持つほか、本場・ナポリの「ナポリピッツァ職人協会」にピザ職人として認定されている。


河野 強(こうの つよし)プロフィール

調理師学校卒業後、約6年間フレンチ、パティシエ、サービスを経験し、イタリアンに転身。ソムリエやヴィーガン料理資格ほか、コンテスト「RED U-35」や「食の都・大阪グランプリ」で入選経験あり。「次の展開として、高級店とグロッサリーのあるワインショップの開業を目指しています」。

[掲載日:2025年2月28日]