河内鴨専門店を貫く
『鴨料理 田ぶち』は2022年に神戸から京都へ移転。より専門店としてのクオリティーを高め、オリジナリティ溢れる料理を供すると評判です。店主の田渕孔大さんに、河内鴨に魅かれたきっかけや京都への移転について、お話をうかがいました。
津村さんが師匠
「河内鴨との出会いは大きいですね。専門店になったのは『河内鴨ツムラ本店』の津村さんとの会話がきっかけです」と「鴨料理 田ぶち」の田渕孔大さんは話す。「特に修業をした店もないので、津村さんが師匠みたいなものですよ」。
「河内鴨ツムラ本店」が卸す河内鴨は、大阪の河内松原発祥の、養殖の合鴨。旨味が強く、料理人からも評判が高い。15年くらい前、その河内鴨を仕入れるために、田渕さんは津村さんのところに面接に行ったそう。「2回目の面接では、ノートいっぱいに鴨のレシピを持って行きましたね。“これだけ?”と返されましたけど(笑)」。河内鴨は1日200羽だけ捌くとあって、当時から品薄。「私がいいなと思う店に使ってもらいたい」と津村さんに正直に言われたそう。また、「他の肉の間に鴨を使われるのも嫌。なんやったら鴨一本でコース作って、勝負できるか」とも。
それまでも河内鴨をレストランなどで食べたりしていたが、売り場で朝挽きを買って持って帰って調理して食べてみると「鴨の次元が違う。めちゃくちゃうまい。何より香りがよく、フレッシュな朝挽きの鴨で色々な料理ができるとどんどん発想が沸いてきました。生で食べられるのも素材の力として強い。本当に河内鴨一本で専門店をやっても面白いんじゃないかな、と思いました」と話す。
神戸から京都へ
2010年に、神戸に店をオープンした。河内鴨一本のスタイル。創意工夫ある鴨料理が人気を博し、2016年には新しいジャンルとして、兵庫ミシュラン特別版にて一つ星を獲得した。順調に店は流行っていたが、コロナをきっかけに、看板の鍋料理の提供や個室での食事が難しくなった。また、「神戸の店は料理屋というよりも、40席あったので人を多く雇った大型店という感じでした。ちょうどそのことに疑問を持ち始めていましたね。合理的で商売としては良かったのですが」。料理人であることと商売をすることは、別の話かもしれない、と思えた。今は料理人の道を追求していく時期かもしれないと考えたという。
お店を移転しよう、カウンターメインにして規模を小さくし、1人でできる商売にしようと動き始めた。その時は神戸か大阪で、と考えていた。「いろんな物件を見ましたが、ピンとくるものがなく……京都に足を伸ばして、町家を見てしまうと素晴らしくて、こっちに来てしまいましたね。京都に知り合いもおらず、仕事をした経験もなかったのですが。この100年の歴史ある町家での鴨専門店は、説得力があるのかなと思えました」。
2022年11月京都へ移転。料理はお客さんの顔が見えるカウンターで田渕さん自身が仕上げるスタイルに変わった。さらに、「京都全体的にお水はおいしいなと思いました」と。水道水も使うが、店からほど近い場所の下御霊神社の地下水も使い、出汁をとったり、お茶を淹れたりしている。
また、野菜は大原に通い、仕入れている。例えば大原のツルムラサキはさっと湯がいてお浸しに。それを炭火で塩焼きにしたハツとズリといっしょにかぼすを絞って。ごめす農園さんのビーツなら甘酢漬けにし、鴨ローストに添えてなど。「変わらず料理はシンプルですけど、場所が変わったことで、新しい出会いがありました。鴨のうま味に負けない味が濃くて強い野菜がありましたね」。そして「田野屋塩二郎」氏の特製塩は欠かせないとも話す。
京都×河内鴨の新発信
「まだ2年ですから、まずはこの京都でコツコツと、ですよね」と田渕さんは話す。ただ、関東からのお客様が多く、京都へは来やすいという声も多い。京都で鴨料理専門店をすることが世界発信には近いかもしれないとも考えている。
また、「京都と河内鴨の新しい出会いみたいなものを発信しているところはあまりないので、新しい何かがどんどん生まれてくるってことですよね。ここでしかできないものが生まれてきて、それが周知されていけば嬉しいですよね」とも話した。
[掲載日:2024年11月1日]