神戸スイーツを世界発信!
『パティスリー モンプリュ』の林周平シェフは、神戸のスイーツ界を牽引し続けてきた第一人者です。その林シェフを中心に神戸のパティシエ8名が活動する「ORIGINE KOBE(オリジンコウベ)」という集まりがあります。来年2025年で結成10年となる、その長きにわたる活動について、林シェフに話をうかがいました。
「ORIGINE KOBE」が生まれたきっかけ
「ORIGINE KOBE」は、「スイーツの街・神戸」の発展と神戸スイーツの魅力を広めることを目的とした、神戸を代表するパティシエ8人によるプロジェクト。代表を務める林シェフにその誕生のきっかけを尋ねてみた。
「2015年から活動しています。あるとき、『コンパルティール ヴァロール』の大西達也シェフが、お使い物はこのお店で買うとか、自分のご褒美はあのお店で買う、といった内容の、神戸の方々のお菓子の取り扱い方の新聞記事を見たそう。そのラインナップはもう決まってしまっていて、あまり動きがない。今後はどうなるのだろうと心配もありました。さらに“もう少し神戸の位置づけなどを発信できたらいいな”とも思ったそうです」。また、「大西シェフは、“フランスでは各地方に地方菓子があって、どのお店に行っても同じものがある。そういった菓子が神戸でもできたらいいな”と思い、その話を日仏商事のアントニーさんや僕にしてくれたんです」。林シェフはその想いを聞き、「僕らの活力になるのは恩返し。神戸のために、みんなで、もしできるのであれば、それは面白いよね」と話したという。
そのときに集めたシェフが今の8人。林シェフ、大西シェフのほか、『パティスリー アキト』田中哲人シェフ、『パティスリー エトネ』多田征二シェフ、『ラヴニュー』平井茂雄シェフ、『マ・ビッシュ』村田博シェフ、『パティスリー アグリコール』奥田義勝シェフ、『パティスリー ラトリエ ドゥ マッサ』上田真嗣シェフ。さらに、アントニーさんにマネジメントと運営関係を、スイーツコーディネーターの松本由紀子さんに広報を任せて、「ORIGINE KOBE」は10人でスタートしたという。
新作や講習会を通じて伝える
まずは、フランス地方菓子のようなお土産となる菓子が、「ORIGINE KOBE」に属するどの8店舗へ行っても同じものが同じ値段、同じパッケージで売っていることを目指した。そこで2017年にできたのが、カフェブラウニー、ダックワーズ、パータシュクレで構成された「オリジンコウベ」という焼菓子。素材は神戸にゆかりのあるコーヒー、チョコレート、レーズン、アーモンドなどを使用している。どの店舗でも製法と材料を同じにすることはハードルが高く、完成まで半年から1年くらいかかったという。「各店での手作りなので、微妙に生地のしぼり方や材料の産地が違ったりしていて、それもユニークですよね。もし1000台とか大量に注文が入ったときは、8店舗へ振り分けることができますよね。ビジネス的にも面白い試みができたと思います」。今後は第2弾、第3弾ができればと話す。
「パティスリー講習会」も年に4回行っている。今まではメンバーの中から2名ずつのシェフが一緒に講習会を行っていたが、今年はゲストシェフを招くという新しい試みを行った。また、「神戸パティスリー・コレクション」という形で、年に2回、秋冬と春夏に分けてテーマを決めて、そのテーマに沿った同じ名前のお菓子を創作し、各店舗で販売。テーマは山や海、ザクザク、男性らしさなどさまざま。今年はドットとストライプだそう。「お菓子は全部新作でみんな異なります。擦り合わせをしないのに意外にダブることはないんですよ」。2020年には「ORIGINE KOBE」初のレシピ本 ORIGINE KOBE collection 「神戸8人のパティシエが作るスペシャリテ64」(旭屋出版)が出版。「神戸パティスリー・コレクション」の中からシェフたちが選りすぐりを選んだという。ほかにもイベントを行ったり、4、5年前からは地方の農園やお菓子屋さんを回る研修旅行へも行っている。
神戸から世界へ
林シェフ個人としては「今、小麦粉を臼でひいて、粉を自分で作ろうとしています。ずっと興味があって」と話す。実は林シェフ、2005年のオープン時から、自身の今の店は65歳で閉めると決めており、そこへ向かっていっているそう。「閉めた後もお菓子は作り続けていきますよ。全部自分で作りたいという想いがあるんです。まずは粉から突き詰めて、素材を全部国産にしたいですね」とまだまだ意欲充分だ。
来年オリジンコウベは10周年を迎える。「ヨーロッパかアメリカか、8人揃って海外に行ってイベントをしたいねと話しています」と林シェフ。パティシエ同士互いに高め合い、講習会やイベントを通じて神戸のお菓子を周知させてきた「ORIGINE KOBE」。林シェフの挽いた兵庫県産小麦を使ったお菓子を生み出し、世界発信する日も近いかもしれない。
[掲載日:2024年10月1日]