異国の地、そして 人生の岐路での決断

山本 嘉嗣よしつぐさん
「Alarde (アラルデ)」オーナーシェフ

大阪・本町の落ち着いたビジネス街に、バスク料理店「アラルデ」はある。
オーナーシェフ・山本嘉嗣さん曰く、「スペイン・バスクに伝わる郷土の味をベースに、日本の旬を織り交ぜたコースを愉しんで頂けたら」。
山本シェフはスペイン修業時代、バスク地方の名レストラン「アラメダ」で3年経験を積み、最終的には魚料理の部門シェフを務めるまでに。また、2016年に開いた自店も、オープン2年目にして「ミシュランガイド京都 大阪+鳥取2019」で1ツ星を獲得。輝かしい料理人人生をイメージしてしまいがちだが、そこに行き着くまでに、壮絶とも言える人生のアップダウンがあった。

「日本の外へ出るなんて、考えられないと思っていました」
飲食店でアルバイトをしていた10代後半の頃。「親父が和食店で料理長をしていたこともあり」、お父様が勤めていた企業の飲食事業部へ入社した。「料理長の息子だから、仕事ができて当たり前」と職場では風当たりもきつく、組織のなかでもがき苦しんだ。「それでも、父を慕ってくれていた先輩たちは、気にかけてくださった。とにかくがむしゃらの毎日でした」。入社6年目にして山本青年は、怪我で一線を離脱。時を同じくして父を亡くし、「職場での理不尽さに、鬱憤が積もり積もってブチ切れて」会社を辞めた。
「誰も知らないところで新たな人生を」と、アルバイトで入ったのは、北海道・キロロリゾートにあるホテルの中華料理店。最初はまかない担当だったが、厨房での仕事が上司の目につき「当時、総支配人だった大野さんから“正社員にならないか?”とオファーを頂きました」。そんな総支配人からさらなる提案が。「山本、和食の修業経験があるのなら、ブエノスアイレスへ行くのもどうかなと思う。息子が現地で和食のシェフをしている。このタイミングで外の世界の話を聞くのも面白いよ」。究極の選択だったが、後者を選んだ。

「渡航するのも初めてなら、アルゼンチンが南半球であり、季節が逆転してるって知りませんでしたよ(笑)」。ブエノスアイレスで出会ったのは、大野剛浩(たけひろ)さん。アルゼンチンはじめ、ラテンアメリカでテレビなどで人気料理番組を持つスターシェフだ。「大野さんと共に和食店をスタートさせましたが、オーナー側の事情があり即、閉店」。その後は大野さんのサポートもあり、中南米の郷土料理を提供するビストロで働くことに。「帰国は考えられなかった。だってアルゼンチンという国、そしてこの地で暮らす人が大好きになったから。街中で遭遇したマラドーナでさえ、“お前もサッカーが好きなのか!”といきなりハグしてくれた。それくらい、この国の人たちは外国人である僕にフレンドリーでした」。
しかし、アルゼンチンの経済状況は予断を許さないほど悪化していた。2003年、経済崩壊。「いつ強盗に遭ってもおかしくないから、リュックに柳庖丁を入れて通勤するくらい」、命の危機を感じる日々が続いた。
人生の危機に晒され、ついに帰国を決めた。アルゼンチンに渡って3年の歳月が流れていた。

帰国後。山本さんは、バスク料理にも造詣が深い大野さんの影響もあり、国内のスペイン料理店で経験を積むことに。「大野さんはバスク地方の名店『スベロア』のミシュラン2ッ星獲得に、大きく貢献した料理人でしたから」。そして、いつしか憧れはバスクの地へと。
「北浜『エル ポニエンテ本店』でひとり、誕生日ディナーを頂いていたときでした。バスク・フェアのために来日していた現地のシェフたちが、店に入って来たのでです」。山本さんは酔った勢いで、「僕はバスクで働きたいんです!」と彼らにスペイン語で伝えたところ、「おぉ、スペイン語を喋れる若者がいるぞ。君がその気であれば、ぜひバスクへ来なさい!」と大いに盛り上がったという。
なんと、彼らは後の修業先となるバスク「アラメダ」の料理人チームだった。

ピンチに立ったとき、人生の危機に晒されたときの選択———。
山本さんは幾度となく、それらを経験してきた料理人だ。では人生の岐路での決断において、最も大切なこととは?「ずばり“思い切り”ですね。少しでも悩みがあると、判断が鈍くなると思います。そして“こうなりたい”という強い思いを、しっかり持つこと。このふたつに尽きると思います」。そのスタンスは、店づくりや日々の生活でもしっかり窺える。「市場での食材選びひとつとっても、迷いはなし。人との出会いもそう。これだと思ったら、突き進むのが僕らしさかなと。一期一会が、自分の未来への大きな糧になると、信じています」。そう言って、山本シェフはにこやかな表情で締めくくった。

[2019年3月29日取材]

ひとりで店を切り盛りする、山本シェフ。「ブレることなく、バスクならではのトラディショナルな食文化を伝え続けたい」と想いは熱い。
カウンター席に腰を下せば、目の前には蓋付きの鉄製アサドール。炭&薪火を用いたバスクならではの味を、コースで楽しませてくれる。
自家製のバスク・チーズケーキ。スペシャリテのひとつだ。どっしり重みがあり、濃厚な味わいながら後味すっきり。
「Alarde (アラルデ)」
住所 大阪市西区阿波座1-14-4 サインカンパニービル1F
TEL. 06-6616-9825
営業時間 17:00〜22:00
定休日 日曜、祝日
コース 8000円(税別)

[ 掲載日:2019年4月22日 ]