「肉と火入れの新時代」

開催日:2019.7.7

Program 2:料理実演と試食 [フランス料理] 2/2

山口 浩氏
「神戸北野ホテル」総支配人・総料理長
料理
「肉の火入れの新時代(山口)」

●タンパク質の反応(参照:表10・表11)。50℃でミオシンが変性を開始する。ミオシンは肉の柔らかい、おいしいところ。56℃でコラーゲンが変性を開始する。完全に溶け始めるのは90℃かもしれませんが、56℃くらいで変わっていく。本日は肉のコラーゲンの多い部位を食べてみてください。固いスジではなく、食味として楽しめるような柔らかさになっています。60℃で肉の色が変化し始めます。アクチンは66℃で変性を開始しますが、肉から水分が出ていく。つまり肉汁が出てしまいます。では、どこを狙うか、温度帯がデザインの中で必要だと思います。56℃が一つのキーでした。50℃でミオシン、56℃でコラーゲンが変性を開始する。60℃で肉の色が変化して66℃でアクチンが変性する。そこまで温度を上げないで肉を調理することが大切です。

表10:「50℃」ミオシンが変性を開始
表11:「60℃」肉の色が変色し始める

●コラーゲンは肉の部位によって含まれる割合が違ってくる(参照:表12・表13)。ロースにはコラーゲンがあまりないのでステーキとして使える。ほお肉とかスネ肉、牛スジはコラーゲンの塊なので、とことん煮込むしかなかった。ここを、とことん煮込まずに「新しい肉の火入れ」ということでやってみたいと考えたのです。スネ肉をヒレカツのように使うことはありません。コンソメを作る出汁やミンチにして、牛一頭すべてを牛ロースのように使えればいい、それもサスティナビリティかなと考えています。

表12:火入れの目的:3コラーゲンのゼラチン化
表13:火入れの目的:3コラーゲンのゼラチン化

●メイラード反応は、香気成分をつけることでした。以上、川崎先生に本会で何度もご指導いただいていることですが(参照:表14)、加熱原理(肉の温度による変化)を前提に、素材×温度×時間による「温度の選択」こそが「肉の火入れのデザイン」だと考えています。

表14:加熱原理:肉の温度による変化

●肉に火入れをすると、タンパク質が変性し、ミオシン、アクチンはタンパク質なので変性すると固くなります。水分が抜ける。変性して縮むので水分70%がグーッと絞り出るイメージになります。コラーゲンは溶けるのですが、ステーキとか単純な加熱の時間だとコラーゲンには何の変化も起こらない。「強火で火入れをすればいい」と思っている料理人がいますが、コラーゲンはそのままで肉の水分が全部表に出ていくことになる。それが硬い肉の正体です(参照:表15・表16)。肉が固いというのはコラーゲンが溶けなくて、アクチンが完全変性し、水分を排出してしまった状態です。ではどうするか。最適の調理温度の設定で料理し、水分が抜けることを制限し、コラーゲンが加熱によって溶けて柔らかくなる。ここを狙いたい(参照:表17)。

表15:肉に火入れをすると *硬い肉の正体
表16:肉に火入れをすると *硬い肉の正体
表17:肉に火入れをすると *柔らかい肉の正体

●これが今回の加熱デザインのイメージです(参照:表18)。最初、油でフライ揚げをしました。180℃で数秒入れます。これで完全殺菌です。表面の細菌は全部死んでいます。でも表面だけで、中まで温度は変わっていません。一瞬ですから。その後、温度を下げて真空パックに入れます。表面より中に入った部分まで殺菌したかったので83℃で5分。フランスの真空調理の衛生管理で「このことは必ず守りなさい」といわれています。56℃で直接的に何時間も入れたらだめです。その後、56℃で5日間やってみたんですが、チーズのような発酵臭がする。この原因はわかっていません。まだ詳しく調べていませんが、身体に有害なものでないことはわかった。今まで低温調理56℃で8時間やっていたんですが、火を入れるイメージは、こうなります。表面63℃、30分というのは牛乳の低温殺菌の温度帯を真似て算出したものです。60℃~65℃で殺菌する。表面だけなら63℃まで上げてもいいだろうと。表面は殺菌されたものと考えてください。

表18:今回の加熱イメージのデザイン

●分子自体が移動しながら熱を伝える恒温槽だから新しい調理法ができたと考えています(参照:表19)。本日のはコンビーフのような肉の感じです。でも、水分は飛んでいません。10%ほど水分は出ていますが、ほとんど出ていない状態です。サクサクと歯が入っていきますが、ジューシーさは抜けていないと思います。召し上がっていただいて確かめてください。

表19:フライヤー/コンベクションオーブン/恒温槽を利用

■本日の料理

用意した肉は、神戸牛のスネ肉です。普段は半分以下くらい筋を取り除いてしまうのですが、これはほとんど掃除をしていません。掃除する段階で部位に分けるので多少、脂があります。そんなに脂がない部位ですが、なるべく塊の部位にした状態で周りについた脂を除いただけです。多めの油で揚げ焼きし表面殺菌をします。油は180℃くらい。数秒で完全に表面が殺菌されます。それを冷却後、少しの牛脂と真空パックに入れて83℃で5分加熱、フランス基準で殺菌します。更に、新たな基準それが83℃で20分の加熱です。表面よりも内側まで殺菌を行い、その後、56℃で5日間、このサイズだと5日間必要ですが、半分くらいなら3日間でも大丈夫です。恒温槽に入れて、夜中に勝手に仕事をしてくれるので付ききりではありません。これが最終的に出た水分で、10%くらい出ています。煮込みからすると、ほとんど出ていない状態だと考えてください。

その肉を切ってからパン粉をつけて揚げます。表面は60℃以上になっているかもしれませんが、ベストとしては56℃で出したものを切って56℃の状態のままパン粉付けをして160~180℃で揚げたい。それを今日は190℃近くで揚げます。理由はメイラード反応を起こしたいだけです。パン粉もパリッとさせたい。筋は通常、固くて食べられないんですが、少し面白い食感で、これはコラーゲンが変性している。これを塩胡椒してパン粉付けて揚げて油の中でメイラード反応を起こさせる。きれいなメイラード反応で、香味成分が出ています。

カクテルソースはいろんなものが入っていますが、おいしいと思ったので、みなさんに披露させていただきました。レフォール、赤ワイン、白ワイン、ブランデー、酢、チリソース、ケチャップ、レモン汁、ウスターソース、タバスコと、こんなに混ぜなくてもいいのですが、全部、混ぜるだけです。食パンは『メゾン ムラタ』の米粉を使ったもので、パンの味も試してください。パンの片面にマスタードソースをつけ、両面にたっぷりのカクテルソースをつけて。このパンは全部召し上がっていただけるように耳の部分を少なくしています。トーストは素晴らしい焼き色です。サラダブーケにドレッシングを置いて、これで新時代の火入れによるビフカツサンドの出来上がりです。

「肉の火入れの新時代(山口)」