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料理人が刺激を受けた 味・技・人

料理人が刺激を受けた 味・技・人 63 サスエ前田魚店から届く魚 緒方 博行さん 「洋食おがた」オーナーシェフ


「洋食おがた」
京都市中京区柳馬場押小路上ル
等持寺町32-1
TEL. 075-223-2230

営業時間:11:30~14:30(L.O.13:30)

17:30~22:00(L.O.21:00)

定休日:火曜日、月一回不定休

割烹のようにお客さんの要望にできるだけ応えられる洋食店を目指していると緒方さん。洋食メニューの研究に余念がないこともよく知られている。

スズキのカルパッチョには、贅沢なほどにカラスミのすり下ろしをトッピング。添えられているのは静岡の本わさび。これだけでスペシャルな一皿になる。

『サスエ前田魚店』から届いたタチウオ。厚みのある身が塩で締まっている。

緒方さんは、タチウオをフライに仕上げる。洋食ならではの揚げ料理だ。

脂がのった身は衣の中で蒸されて美味しくなる。衣はカリッと中はふんわり柔らか。食感も味わいも絶妙のフライ料理になっていた。

 プロが作る洋食に、懐かしい味を求める者もいれば、家のとはひと味違う料理を期待する者もいる。時代を経て親しまれてきた洋食への、多様で気ままな欲求に応え、幅広い世代から人気を博しているのが京都の『洋食おがた』だ。

 オーナーシェフの緒方博行さんは「気になる食材と出合ったら、生産者さんに会って確かめたくなるのです」と話す。実際に牧場や農園を訪れ、飼育や栽培の方法、取り組みなどの話を聞き、確信が得られた食材を仕入れている。なかでも、京都丹波の平井牛、宮崎の尾崎牛、京都河北農園の野菜など、洋食おがたの料理には欠かせない食材になっているのも多くある。

 お馴染みの定番メニューに、こうして選ばれた食材が使われていたら、どうだろう。懐かしい味の記憶も更新させられるほど旨くなるはず。また、正統フレンチやビストロで鍛えた緒方さんが手を加えて作れば、見た目は同じでも他では味わえない洋食になる。これを、多くの人は、大人の洋食と呼んでいる。

 ところが、評判のよい肉に力を注ぐうち、メニューの8割が肉料理になっていた。緒方さんは魚料理のレパートリーを増やさねばと思ったそうだ。「静岡に住む友人から、近くに凄い卸業者がいると聞かされていたのです。ようやく今年になって、焼津にある店まで行ってみました」その伝手を頼りに出会えたのが、鮮魚卸小売業『サスエ前田魚店』の5代目、前田尚毅さんだった。

 『サスエ前田魚店』は、同じ静岡にあって東西の食通が通いつめる天ぷらの名店『成生』をはじめ、国内外の料理人から篤い信頼を得るオーダーメイドの魚屋として知られている。「お会いして、何故そうなのかよくわかりました」と緒方さん。

 「捌き方、締め方、塩する方法、それらを魚の種類に応じて変える。その理由も聞きながら見せてもらいました。オーダーごとに魚の水分や旨みを調整し、鮮度をコントロールしているのですね。魚を熟知していないとできない技術だし、前田さんと話しているだけでも勉強になるのです。それに何より、前田さんの魚への愛情まで感じられ、心を揺さぶられました」

 大いに刺激を受け、『サスエ前田魚店』の魚を京都へ送ってもらう段取りになった。「こちらの希望だけ伝え、あとはお任せです。静岡県駿河湾で獲れる魚介は結構いろいろありますから、前田さんの目利きで選んでもらいます」そうして、届けられるたびにまた、新たな刺激の連続なのだと話す。

 「ある日、ネットに僕のアジフライが出ていたらしく、うちのアジを使ってよ、と送られてきたのを見てビックリ。身がプリップリ、こんな身の太いアジがあるなんて初めて知りました」と、届く魚の質のよさには驚くばかりという。それに「紙に包みラップして送ってくれるのですが、頭を左に揃えきれいに並べてあるのです。配送にこれだけ気を遣われるのも前田さんのとこだけです」

 取材の日に届いていた魚のひとつ、スズキの切り身を見せてもらう。「塩で締めてあります。余分な水分が抜けて甘みが増していますから、余計なことする必要もない」と、緒方さんはカルパッチョふうの一皿にして供してくれた。
口にすると、身がホロッと弾力があり、生の身のはずなのに刺身とはまったく異なる感触だ。洋食の店で、スズキの新たな美味しさを知ることも新鮮である。

 こうして『サスエ前田魚店』から魚が届くたびに、どう活かすかの対話が始まった。「店のメニューに並べ始めたのが5月からなので、これからもっと考えて増やしていきますよ」と緒方さん。肉料理には定評のある『洋食おがた』に新たな魅力が加わって、どのような展開になるのか楽しみだ。

[2017年11月29日取材]

[ 掲載日:2017年12月22日 ]

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