「アフターコロナに向けて 困難に立ち向かう『新しい世界の構築(つくりかた)』」

Program 1:基調講演

本田 直之氏
「レバレッジコンサルティング株式会社」 代表取締役
講演:『食の世界でアフターコロナをどう生き抜くか』

(コロナ禍を経験してきて)今後、コロナ以前のような生活に戻ることはかなり難しいと考えている。コロナの前と後では、まるっきり変わってしまった。その変化に合わせた、新しい考えややり方を導入していかないと生き残れない厳しい時代が来ている。逆にいうと、アフターコロナには大きなチャンスがあると思われる。

(世界に目を向けると)ハワイでは、観光客が来ないので大きなダメージを受けている。ローカルエコノミーだけでは経営が成り立たないから、ワイキキなど観光客ターゲットの飲食店は約半分が撤退を余儀なくされている。店をいったん閉めて、態勢を整え直そうという動きがみられる。ニューヨークでは、これまでのような営業ができなくなり、郊外へ移転して活路を見出そうとする店が多くある。アメリカではスタッフのレイオフ(一時解雇)が施策として認められているので、多くの従業員が職をなくし、失業率も高くなっている。先が見えない中、みな模索しているのが現状だ。

日本ではどうか。観光客だけを相手にしてきたわけではないので、まだいろいろな対処が考えられる。飲食店の場合、これまでは立地が大事だった。人が集まる場所に店を出すことで、客を呼び込み売り上げを伸ばしてこられた。しかし、コロナによって人が密になる場が避けられるなど従来の枠組みには当てはまらない変化が起き、立地の良かった飲食店にも人が集まらず、より厳しい状況にさらされている。立地が良ければ家賃も高いため、さらに厳しくなる。対してリモートワークによる在宅勤務者が増え、各地で家の近所にある郊外立地の店を利用することが多くなってきている。また、立地が良くなくてもコロナ禍の前から常連客が多かった店は、影響を受けていない。こうしたことを分析して考えてみる。

例えば、フォロワーが多いインスタグラムの投稿者にPRを依頼していた企業は、フォロワーが多いからといって期待するほどの効果が上がらないことに気付き始めている。これは、立地の良い店の話と同じではないか。人通りというのは、フォロワーみたいなもの。人通りやフォロワーが多くても、店(企業)の売り上げに結びついていないのは何故か。通る人もフォロワーも、その店(企業)を積極的に利用していたわけではなく、消極的に選んでいただけだとわかる。会社の近くにある店を毎日利用していた人が、在宅勤務になっても来てくれるかといえばそうでない。これは、たまたま近くにあるから利用していただけの消極的な選択であったのだ。こういうことが、立地の良い店に客が戻らない決定的な要因だと思われる。郊外立地でも、立地が良くなくても集客できている店は、顧客が積極的な選択をしているからである。「この店で食べたい」、「この料理人の料理が食べたい」などファンとして選ぶ理由があるので、コロナに関係なく来店してくれる。

こうしたことから、常連客をファンとしてつかんでいるか、エンゲージメント(愛着や信頼)の高いコミュニティができているかが問われている。フォロワーは多いが、エンゲージメントの高いファンがいなかったということが大きな問題。だから単なるフォロワーではなく、ファンをいかにつかんでいくかが大事になる。そういう基本に立ち返り、一人ひとりの顧客を大事にして、リピーターになってもらうことが必要。ファンである顧客のコミュニティをどのようにつくるか、そしてそれをいかにキープしてゆくかという「ファンベースマーケティング」がこれから重要になる。リアルな接客の場だけでなく、オンラインでも顧客とのコミュニケーションが必要な時代になっている。

例えば、東京郊外に無名のバーがあり、そこのシェフがユーチューブにおいしいパスタの作り方をいくつか動画にして投稿したら、再生数が数百万回になるほど評判を呼び、動画を見てファンになった人が全国から実際の店にやって来るようになったという事例がある。今はこういうことが起こる時代。やり方は様々だが、どうしたらファンになってもらえるかを真剣に考えないといけない。

とくに日本の飲食業界は、DX(デジタルトランスフォーメーション)に大きく遅れをとっている。パソコンが苦手だからと、そのまま放置していられない時代になっている。ヨーロッパでは、三つ星レストランをはじめ多くの飲食店がメニューにQRコードを導入している。従来のメニューは不特定多数の人が手に触れるため廃止し、顧客にスマートフォンでQRコードを読み込んでもらうようにしている。QRコードなら、メニューの書き換えが簡単にでき、写真や動画など多彩な情報を付け加えることもできる。さらに、オーダーまでできてしまう。つまり、メニューの選択からオーダーまで、人を通すことなく行える。さらに凄いのは、クレジットカードを登録すれば、支払いも済ませられる。人を通さなければ、コスト削減にもなる。コロナ禍の今は、こうした店のデジタル化に関して、つまり従来のやり方からデジタルを使った方法へと変えること(つまりDX化)について、顧客にも納得してもらえるため導入しやすくなっている。

料理人の中にもツイッターやフェイスブックを使っている人は多くいるが、フォロワーが少ないから意味がないとは思わないほうがよい。田村浩二さんの『ミスターチーズケーキ』は、彼の個人的なツイッターから始まっている。彼のツイッターを読んでおもしろいと思った人がフォロワーになり、彼がオンラインで売り出したチーズケーキを食べ、おいしいと感じてファンになり、リピーターになってSNSで拡散させて仲間を増やしてくれた。田村さんのチーズケーキをめぐってファンコミュニティができていった。もちろん、冷凍でもおいしいなど、創意工夫があればこそ。しかし、こうした濃いファンの存在が、いまや無店舗でありながらチーズケーキだけで驚異的な売り上げを成り立たせるまでに成長させたといっても過言ではない。エンゲージメントの高いファンが、いかに大事かがわかる。個人店の場合、数はそれほど多くなくてもかまわない。まずはどうすればファンとなり、常連さんになってもらえるかを考えたほうがよい。

店の外にも可能性を広げられる例として、焼鳥『鳥幸』の活動を紹介する。コロナ禍の窮状を打開するとともに、仕入れ先の地鶏の生産者も支援するため「体験型取り寄せ」を企画。家庭でも焼き鳥ができるように専用の焼き台を造り、地鶏肉とセットにして売り出した。用意した1,000台は即売し、2021年1月上旬に1万台を突破。焼き台を持つ家庭には月替わりで各地の地鶏を販売し、焼き鳥を楽しんでもらえるような仕組みにしている。つまり1万世帯の常連さんを日本中に持つことになる。焼き台をきっかけとして、常連さん同士で情報交換が行われたり、ファンコミュニティもできたりしつつある。

オンラインイベントの例も紹介する。日本を代表する蔵元6蔵と共同で「日本酒を飲もう、焼酎を飲もう」を開催した。インスタグラムでの生配信、各蔵の中継体験などを行い、同時に6蔵の日本酒・焼酎をセットで販売。約5万人がこのライブを視聴し、酒販店など関係各社にも波及効果があった。オンラインでのイベントにはいろいろなアプローチが可能で、正解ということがなく、やってみないとわからない。やりながら考えるしかないが、これまでにない大きなチャンスが広がっていると思われる。

まとめ。これからはしっかりファンをつかむこと。そもそも常連さんを大事にするという基本に立ち返ることなのだが、コロナ禍だからこそこれまで以上に大事にしたい。新しい動きにつながるチャンスは、まだまだ隠れている。