「麺に学ぶ」

開催日:2020.2.9

Program 3:パネルディスカッション 2/2

門上 イタリアでは、また違うんですね。麺というとパスタですが、「練る」ということもパスタという。

山根 パスタの意味はインパスターレという「練る」という意味です。生地を練ったものは全部パスタです。そば粉であろうが麺と関係のないパンの生地もそうだし、プラスチックの生地のどろどろとした樹脂もパスタという。練って少し粘性のある固まりになったものは全部パスタという。

山口 フランスもイタリアも大陸でつながっているので、麺があることはあるんですけど、料理の組み立て方としてフランス料理にはデザートがあります。糖質を摂取するためにお菓子が発達した。そこでしっかり糖をとるから麺がなくても満足感が得られる。イタリア料理のデザートはあまりたいしたものはないですものね。日本料理も伝統的にデザートはないですね。果物とかくらい。トータルに考えた時、「人が欲するものを、どう出すか」という切り方の違いだと思うんです。それより「これからの食」だと思いますね。糖質コントロール。デザートとパンだけ注意しておけばいい、みなさん、フランス料理を食べましょう。

門上 トータルで考えていくと、それぞれのあり方があるということですか。

川崎 食べ物を考える上で栄養学の分野において「食べ物のおいしさ」というのは栄養を摂りたいために感じさせられていると思っています。一つの食事の中で何がどの栄養素を担うか。人間がアフリカで生まれて全世界に散らばっていった時、栄養欲求をそんなに変えずにその土地にある食材を変化させる、それが料理でした。変化のさせ方と選んだ食材が、土地の食文化を形成していると思います。たまたまそこでデンプンがいっぱい採れれば、それを摂る。肉が手に入りやすければ、それを加工するために肉料理が発達する。肉の場合は脂がある。現代人からすると脂は避けますが、当時は1g・9kcalで、できるだけ摂りたかったはずで、デンプンをやめて肉とタンパク質と脂を摂った方が短期的には元気になる。昔の人は100歳まで生きようとは思っていないわけで、子孫さえ残せればいいと生物学的に考える、そうやって食文化がつくられていったのではないでしょうか。

門上 話は広がりそうですが、山口さんは「これからの食」についてフランス料理の優位性を語ろうとされていますが、吉岡先生、何千年の歴史がある中国料理からみて山口さんのトータルで考えて違う意見が出てくることにはどうお考えですか。

吉岡 デンプンを加熱して食べるのは人間がもつ独特の行動です。自分の体内にあるデンプンの分解酵素を用いて糖に変えてエネルギーを得る。さらに消化もよくなるし、おいしい。こういうことを繰り返す。それができない動物は直接糖を摂るためにフルーツを採る。それぞれの国にデンプンを含む食品がある。日本で小麦粉が重要な地位につけなかったのは米が主食で、それでデンプンは充分に存在していたから小麦粉は入る余地がなかったのでしょう。しかし中国の北方では米が育たなかったが、小麦粉は収穫できた。逆に南方では小麦粉はつくれずに米が採れた。北方で金という民族に追われて宋の民族が南の杭州、上海の近くまで下りてくる。その時に北方の麺の文化が南に下りてきた。そこで南の人たちは米でヌードルを作ることを考え出した。それが東南アジアに広がっていく。それぞれの土地にあるデンプンをいかに上手に体内に栄養として摂り込むかは地域性もあって、麺のスタイルが違う形で発達していったのではないかということです。松尾さんのプレゼンでグルテン形成のために「水と小麦粉を練って一晩置く」そこが興味深いと思いましたが、もともとそういうスタイルだったのですか。

松尾 グルテンを形成するには時間が必要なので「寝かす」ということです。「麸の焼き」を焼きたてで食べるより、一度寝かしてβ化して、もう一度再加熱した方が腰が強くなります。表面の水分が抜ける影響もあって歯応えやテクスチャーが変わるのだとと思います。

門上 こういう手法はイタリアでもあるんですか。

山根 麺は必ず寝かせますね。練る時に引っ張って伸びている状態で一旦縮んで元の伸びた状態に戻らないと伸びないんです。伸ばそうと思っても戻ってしまう。粉を練ったものを落ち着かせるためには「寝かせる」時間を半日くらいとるのが普通です。松尾さんの「麦餅」では、小麦粉を練ったものを一度蒸して餅のようにつくところを興味深く見てました。潰してまた練って、一回火を入れたものをもう一度つくというのが面白いなと思いました。食感も、よかったです。

門上 高橋さんは小麦粉を日常的には使われていないのですか。

高橋 そうですね。あまり使わないです。小麦粉は日本料理で使うには重いんです。タンパク質が2、3倍ありますから味が濃い。お菓子では、上用もキントンとかになる。その方が上品なおいしさになる。糖質を食べることが大前提にあって小麦粉を使う場合でも、練り切りにしたり、ウイロウに入れたりと、ランクが下がるというイメージがどうしても日本料理にはありまして、ごめんなさい。私が麺でプレゼンするとしたら、麺というと切った麺のイメージが強いので、小麦粉とか粉の特質を調べて日本料理で使える配合を考えるかなと思います。

山口 吉岡先生がロジカルに追求されていたこと、あれは参考になりました。「水分を保持しながら生地の触感がちゃんとある」というのは未知の食べ物だった。お客さんに出す料理に応用したいなという思いはありますね。

川崎 粉をとらえるとフランス料理の場合、料理の中に粉があるよりはデザートでパティシエがいかに粉を扱うかで究極的に技術が進んでいると思います。以前、「オ・グルニエ・ドール」の西原金蔵シェフに来ていただいて粉のことをやりましたが、それを見ているとバターと粉を合わせる順序を変えるだけで触感がガラリと変わる。フランス料理の場合、パティシエが技術をグッと突っ込んで発展させているのではないかと思えて。他のジャンルの方は料理の中に粉の扱いがあった。トータルに広くいうと栄養学的には同じことをしているのだと実感できました。

門上 川崎先生の「知新温故」も興味深い提案でした。「温故知新」の最終回で何らかの答えが見えてきたかなという感じもありましたが、また新しい切り口も感じられたと思いました。最後に松尾さんからいただけますか。

松尾 今回、「麺に学ぶ」というテーマを示された時、何をすればいいのか悩みました。細い線状の麺を作ることも考えましたが、それでは面白くないなと。小麦粉を使ってどういうことができるか。最初に同じ水と粉の割合で練り方と火の入れ方、焼く、蒸す、揚げるとか、それによるテクスチャーの違いをやってみようと思ったんですが、限界があった。今日は「粉はこういう特性を見せるんだな」と勉強させてもらったことはプラスだったと思います。私はこういう表現になりましたが、まだやり尽くしていない技術もあり、世界の料理の潮流からすればフランス料理は王道かもしれませんが、クオリティの高いありようが全体に影響を及ぼすと思うので、その意味でもがんばっていきたいと思います。本日はありがとうございました。