「麺に学ぶ」

開催日:2020.2.9

Program 1:レクチャー 1/2

川崎 寛也氏
農学博士、「味の素株式会社 食品研究所」上席研究員
講演:『料理人のための麺のサイエンスとデザイン』

今年度の大テーマ「温故知新」は中国の故事ですが、料理に置き換えると「クラシックな料理とか技術を調べて、現代にとって新しいことを見出す」ということだと思います。クラシックな料理や技術を勉強する。その時の切り口として科学的なこと、原理原則を理解しながらクラシックなことを理解すると未来につながると思います。

■「麺」とは何か(参照:表1)

今回のテーマ「麺」とは「炭水化物のデザイン」であると考えます。麺は全世界にあります。人間は世界に散らばっていますが、全世界で炭水化物をつくっています。炭水化物を食べたいのですね。それをデザインする概念が大事だということです。料理人に必要なのはどうやってつくるかという「理論と技術」、どういう「成分と構造」でできるのか。それをどう「感じ」させるか、舌、鼻、食感を感じさせないと意味がない。そういうのを「デザイン」するのが料理人の仕事だと。それを麺に置きかえると、麺をどうやってつくるか。「技術と加熱」「成分と構造」「麺の食感、だしの味、風味」と考えるのが麺のデザインであるということです。そこで、こんな大胆な整理をしてみました。

表1:「麺」のデザイン

■麺類全景(参照:表2)

麺をざっくり説明する表をつくりました。最初が「成分変化」。どういうものを使って、どう変化させるか。以下順に、粉を形につくらないといけないので構造をつくる「構造形成」。さらに「成分を変化」させる場合があり、人間が食べやすいように「整形」する。整形の技術もいろいろある。最後にさらに「成分変化」があり、「盛り付け」をする。何と組み合わせるか。そうして最後に、麺が何になるかが決まるのではないか。参考に、天ぷらも入れてみました。

表2:麺類全景

■デンプンとは

そもそもデンプンとは「光合成で緑色植物が合成した多糖類」であり、糖がつながったものなのですね。つながっているということは、切ったら分解して小さくなる。しかし、多糖類は分子が大きく人間の舌にある味覚受容体にくっつかないので味を感じられない。分解しないと味を感じられない。多糖類が分解して小さくなったものが糖なので甘く感じる。それが原理原則としてある。さらに科学的な内容として、デンプンには「糊化」と「老化」があります(参照:表3)。デンプンは水を加えて加熱すると透明になる。βデンプンに水を加えて加熱するとαデンプンになる。これが「糊化」。逆に冷却放置すると「老化」する。βデンプンに戻るイメージです。「糊化」と「老化」をコントロールすることが触感に効いてきます。デンプンにはアミロースとアミロペクチン、2種類あってそれぞれ性質が違う。老化しにくいものと、しやすいものがある。もち米とうるち米の違いです。もち米は冷めてもやわらかい。それはアミロペクチンの性質です。

表3:デンプンの糊化と老化

■なぜ小麦粉は麺にしやすいか(参照:表4)

小麦粉は麺にしやすい。そば粉は麺にしづらい。米粉も麺にしづらい。つまり、つながるかどうかですね。デンプンの糊化や老化だけでは説明できない部分がある。それはタンパク質があるからで、そのせいかなと考えられます。米に比べると小麦粉(強力粉)はタンパク質が多い、そば粉もタンパク質が多い。では、そば粉はタンパク質が多いのになぜ麺にしづらいのか。十割そばのことですが。デンプンだけでもしづらい。タンパク質そのものの性質が、そば粉と小麦粉で違うのだろうということになります。

表4:なぜ小麦粉は麺にしやすいか

■グルテンの形成(参照:表5)

小麦粉のタンパク質には2種類のタンパク質がかかわっている。グルテニンとグリアジンです。グルテニンには弾性があり、グリアジンには粘性がある。それに水を加えてよく混ぜることによって「グルテン」が形成される。弾性のものと粘性のものが合わさった「粘弾性」のグルテンができるという表現になります。グルテンが形成される要素が3つある。「空間」「温度」「時間」。空間はよく混ぜること。温度はある程度高い。時間は長い方がいい、つまり「寝かせる」。「休ませる」ともいいますね。科学的にいうと時間をおいておく、放置です。「空間」「温度」「時間」を考えることによってグルテン形成が促進される。これが原理です。シンプルです。シンプルだからこそ世界中に広まっているのだと思います。

表5:グルテンの形成

■麺の触感に及ぼす卵の影響(参照:表6)

麺をつくる時、卵を入れることがあります。卵を入れると、おいしいだけでなく触感に影響がある。大妻女子大学の実験では、卵麺にすると、卵を入れないものに比べると硬さと歯切れやすさがあった。統計的な差はありませんが、モチモチ感の強さはマイナスになり、弱くなっていた。つまり、麺をつくる時、卵を入れるとどうなるか。硬くなり、モチモチ感が下がるのが卵の影響となります。皆さんの実感と合っていますか。ちなみにこれは全卵での実験です。

表6:「麺の触感に及ぼす卵の影響」

■麺の触感に及ぼすかん水の影響

麺の触感ではかん水の影響も調べられています。かん水麺は外観、見た目のなめらかさは下がっている。ツルッとしていない感じになる。ザラザラ感が出てくる。硬さが出て、なめらかさが落ちています。科学的にいうと、かん水を入れた麺は外観の表面がなめらかではなく、硬くなる。その理由は糊化が進みづらいからだろう。α化が進みづらくなっていてタンパク質を溶出しやすい。グルテンが薄く広がってデンプンの膨潤が妨げられる。麺の触感で複雑なのが、デンプンの状態だけでなく、グルテンの状態も複合的に絡み合うので理論的に説明するのは難しい。どちらかだけで影響が出るわけではなく、卵が入ったりして複雑なので、これを入れるとこうなると説明するのは難しい。この実験はシンプルで、かん水だけの影響、卵だけの影響が見られます。

「レクチャー 2」につづく