「魚の火入れ」

開催日:2019.10.20

Program 1:レクチャー 1/2

川崎 寛也氏
農学博士、「味の素株式会社 食品研究所」上席研究員
基調講演:『料理人のための「魚の火入れ」のサイエンスとデザイン』

■火入れのデザイン(参照:表1)

「火入れ」とは「食材の温度を上げる」と理解していただきたい。温度との関係が大事です。日本料理では塩せず、マリネせずに加熱する場合もあり、塩をしてマリネして加熱する場合もありますが、どういう考えで火入れしていけばいいか「火入れのデザイン」という考え方を示します。3つの視点があります。「調理の温度」「成分と構造」「感覚」です。料理するとき、調理温度を何度まで上げるか、その結果どういう成分が生じて、どういう構造ができるか、食感やテクスチャーですね、これも理解しないといけない。さらに最近は、それをお客さんにどう感じさせるか、口の中でどう感じさせるかまで考えておかないといけない。この3つをデザインする訳です。調理だけ考えているのではお客さん不在の料理になる。成分だけの話にもなりかねない。感覚の理解が大事だと思います。

表1:「火入れ」のデザイン

■加熱しても柔らかく感じさせる方法(参照:表2)

これに尽きるかなと思います。料理は「素材」×「下処理」×「温度」×「時間」と理解する。タンパク質の変性を考えたとき、離水温度まで加熱するやり方もある。離水しなければ柔らかいままなので離水温度より下の温度まで加熱するやり方もある。離水温度より上まで温度を上げる必要があれば、それでも柔らかくするためには保水性を事前に高めておく。マリネの概念です。塩だけではなく、砂糖でも保水性が高まることは知られています。さらにコラーゲンを溶かす温度まで保水する、筋線維間に油脂を浸透させても柔らかくなる。このあたりを詳しく説明したいと思います。表面をしっかり加熱するメイラード反応、これも面白いことがありますが、後ほど話します。

表2:加熱しても柔らかく感じさせる方法

■温度と食材の成分・構造(参照:表3)

魚は、肉類、野菜、根菜類とどう違うか。コラーゲンがゼラチン化するとか、脂質が融解するとか、他のものとどう違うか。同時に、煮込み料理のように、一つの鍋の中で同じ熱源で加熱していくと同時に加熱される訳ですから、違う食材を使えば当然、反応は変わってくる。厳密にやりたいとき、肉は肉、魚は魚でそれぞれ加熱して皿に盛りつけるのが「分解と再構築」になります。

表3:温度と食材の成分・構造

■魚の温度による変化(参照:表4)

3つの組織で分けてみます。まず筋細胞。筋線維は20℃くらいで構造が溶け始め、40℃でミオシンというタンパク質が変性して凝固します。50℃でミオシンが凝固する。ミオシンはタンパク質の種類です。また、コラーゲンは40℃で縮まる。筋細胞の周りにあるコラーゲンが絞られるというイメージ。その結果、液体が出ていってしまう。また、タンパク質に結合する水、これは20℃で離れ始め、40℃で細胞からしみ出す。魚の場合、この40℃が何らかの判断に影響をもつ。40℃を超えるといろんな作用が起こってくる。ひとつがコラーゲンのゼラチン化です。コラーゲンは60℃を超えるとゼラチン化する。コラーゲンが水に溶けて、また違う筋線維が離れていく。そもそも筋線維はコラーゲンが接着剤になりくっついているので、それがどんどん離れていって細胞が一本、一本になる。それはそれでまた違う柔らかさになるということです。つまり2種類の柔らかさがあって、「タンパク質が変性する前の柔らかさ」と「変性した後の柔らかさ」です。「変性する前」は低温で加熱した場合。「変性した後」はコラーゲンもゼラチン化させてしまい、筋繊維をほぐす場合。魚では理解しづらいですが、肉でいうとラグーみたいな状態までいけば、ほぐれるという柔らかさになる。肉と魚の違いは温度の違いとなります。いろんな成分が温度によって変わりますが、魚に関して硬さを総合的に調べた図表(参照:表5)です。横軸が加熱温度、縦軸が硬さ。加熱温度が上がっていくと全体として最初、硬いのがだんだん柔らかくなっていって、また柔らかくなる。コラーゲンの問題がここに現れてくる訳です。

表4:魚の温度による変化
表5:魚肉の加熱温度と硬さの関係

■生で硬い魚と加熱した魚は異なる(参照:表6)

お茶の水女子大学の畑江先生が「コラーゲンと魚の関係」を調べています。カツオ、トビウオ、マアジ、ヒラメ、キンキいろんな魚を70℃で10分加熱する。硬さを見るとコラーゲンが多い魚は生の時は硬い。コラーゲンが少ない魚ほど生の時は柔らかい。カツオはコラーゲンが少ないので生の時は柔らかい。ヒラメはコラーゲンが多いので生の時は硬い。それを70℃で10分加熱すると、それが逆になる。コラーゲンが多い魚は加熱すると柔らかくなる。カツオはコラーゲンが少ないので加熱すると硬くなる。ギュッと締まる。その理由をコラーゲンで説明しています。

表6:生で硬い魚と加熱した魚は異なる

■温度と調理技術(参照:表7)

温度と調理技術を見直すと、温度だけでなく加熱媒体がどうかで調理技術の名前がついている。図表のどこを選択するかを温度とあわせて考えないといけないことになります。

表7:温度と調理技術

「レクチャー 2」につづく