「肉と火入れの新時代」

開催日:2019.7.7

Program 1:レクチャー 2/2

川崎 寛也氏
農学博士、「味の素株式会社 食品研究所」主任研究員
基調講演:『料理人のための「肉の火入れ」のサイエンスとデザイン』

■温度と調理技術(参照:表12)

縦軸は温度。横軸は加熱媒体で、赤外線、空気・気体、水・調味液、油脂、金属等。それと温度の関係を見ていくと、なかに空白の欄がありますね。空欄を埋めることが新しい調理技術の発明になる。それができたら、すごい。なぜそこに調理がないか。衛生面の問題とか何か理由があったはずで、やっていないのだと思います。

表12:温度と調理技術(ざっくり)

・加熱調理法を他の素材でやってみる(参照:表13)。新しい料理を考える時、マトリックスで考えてみると、やっていない部分が見えてくる。肉類を水蒸気で加熱する。日本料理では蒸すことがありますが、あまり見かけない。このマトリックスは大体、網羅されていますが、まだ空欄がある。そこに新しい調理の可能性を探ってみてください。

表13:加熱調理法を他の素材でやってみる

■肉を焼く

メイラード反応について。表面に何が起こっているか。肉を耐熱ガラスの上で焼いて下からデジカメで撮ってみました。肉を焼いてひっくり返すと茶色になっています。それを下から見た写真です。肉汁が出てきています。白くなっているのがアミノ酸や脂肪を含む液体、肉汁。濃縮が起こり、白かったのが、だんだん黄色くなり、茶色になる。これがメイラード反応です。わざと傾けているので左側が茶色になっていますが、本来は茶色の部分が肉の下にくっついている。それがひっくり返した時の肉の焼き色。フランス料理では鍋にもついているのを煮溶かしてソースにする。ロゼに焼けた肉の写真。できるだけロゼの状態を大きくして、200℃で8分焼いていく。低温調理の場合、温度管理がちゃんとできるようになると、今度は「最初から56℃で全部加熱したらいい」という発想になる。56℃の温度のままで肉を入れれば56℃のロゼの状態ができ、肉の加熱が完了する。表面はメイラード反応を起こすだけとすると、うっすらメイラード反応が起こることになる。左側はグラデーションになっている(参照:表14)。どっちがおいしいかは料理人の判断で決めるべきだと思います。

表14:(タイトルなし)

・加熱時間と素材の中心温度(参照:表15)。横軸が加熱時間、縦軸が中心温度。表にすると料理の調理法がわかります。この空欄を埋めることができれば新しい調理技術の可能性がある。加熱調理は難しい。低温調理で長時間調理は難しい問題がいろいろある。特に衛生面です。既存の加熱調理法は基本的には腐らないようにしている。「殺菌」の意味があったはずです。安全に食べるのが大事ですから。今、残っている調理技法は、それが解決されているから残っているわけで、新たに考え直して、もう一回考えることは難しい。

表15:加熱時間と素材の中心温度(イメージ)

■加熱原理

熱の種類は3つですが、現実に使えるのは2つ。「高温の物体に接触させる」か「電磁波を照射する」か。3つ目の「高周波電圧をかける」は最近発明されたやり方で、現実的に厨房で行なっていることはない。

・高温の物体に接触させるのは、2つの熱があります。「伝導熱」と「対流熱」。伝導熱は、固体から素材に熱を移すこと。対流熱は、液体や気体から素材に熱を移すことです。「伝導熱」は、運動エネルギーの玉突きといわれます(参照:表16)。下に鉄板、上に食材がある。下に熱エネルギーがあって下から加熱していく。熱が上に伝わって鉄板が加熱され、運動エネルギーが上にいくことによって肉の温度が上がる。「対流熱」は、水なり、空気、気体が対流しながら熱を伝えていくことです(参照:表17)。液体なり気体の流体を攪拌した方が効率よくなる。中国料理で、お玉で油をかき混ぜまぜると効率よく温度が上がります。スチコンでは風の設定が強いと流体が早く回ります。

表16:伝導熱
表17:対流熱

・「電磁波」は「赤外線」と「マイクロ波」です。「赤外線」は輻射熱ですが、揚げたものを加熱するために使われる。電子レンジなどで使われるものです。電磁波の照射には、「近赤外線」と「遠赤外線」があります(参照:表18)。「遠赤外線」は中まで入りそうな印象がありますが、そんなことはなく、表面1,2mmで吸収される。温度が高い性質があるので表面1,2mmで温度が高い状態にある。中は伝導熱でゆっくり伝わっていく。

表18:2)電磁波を照射する

■炭火

「炭の香り」は存在するか。結論は、炭に匂いはありません。匂いの吸収に炭を使ったりするが、炭に匂いはない。炭で焼くと高温でメイラード反応が起こります。炭で焼くと脂質の酸化臭が少ない。メイラード反応の香り成分が強調された香ばしい香りになる。焼き鳥の場合、炭で脂質酸化臭が出て炭から上がってくる煙が肉につく。それが焼き鳥です。日本料理でやるようなよく扇ぐ炭の焼き方がある。それを今回、検証してみました。そうすると煙がつかなかった。この焼き方では扇ぐので、肉だろうが魚だろうが、炭に脂の香りがつかなかった。だから炭の香りと言われている香りは存在しなかった。扇がないと、脂質酸化臭はつきます。

・炭火の加熱(参照:表19)。炭火の表面温度は800〜1200℃と高温なので、表面が乾燥します。メイラード反応が激しく起こる。炭火は一酸化炭素が発生する。それによって脂質酸化が抑えられる。それは他の調理技法にない効果です。油脂臭さがない。内部は表面からの伝導熱でゆっくり加熱され、水分が保たれる。塩をしている効果もあります。

表19:炭火での加熱

■加熱温度の選択に必要な判断(参照:表20)

塩溶性タンパク質を溶かしたいなら、焼く前に塩をするか、塩を含む調味料でマリネする。離水をどの程度させるか。離水させたくないなら中心温度が56℃になるように加熱する。筋線維をほぐれさせたいなら、90℃で90分以上加熱するとコラーゲンがゼラチン化するのでほぐれる。焼く状態で90℃で90分以上焼いたら、そういうことも起こる。表面にメイラード反応を起こしたいなら156℃以上にする。そうしたことを事前に決めておいて、どういう仕上がりにするならどの調理法にするかを決めるといい。

表20:加熱温度の選択に必要な判断

ここまでのことは加熱調理法を単独で使う場合でした。表12と表13のマトリックスで見たように、組み合わせによっては新しいこともできます。茹でる、煮たりした後に焼く。焼いた後に煮込む。上で加熱しながら下で薄めのフライパンで煮込む。煮込みながら上から焼く。組み合わせを同時に起こすか、先にやって後にするか。やってみないとわかりませんが、「煮た後に焼く」「焼いて煮込む」「煮込みながら焼く」という3つのパターンがある。これを発案するにはどうしたらいいかをマトリックスで考える訳です。加熱調理法の組み合わせをマトリックスで自分で描いてみればいい。例えば、自分の店でできる加熱方法を縦に並べてみる。オーブンと炒めなら、低温調理をオーブンでした後、炒めるのは表面をリソレするため。他の組み合わせを考えれば新しいことができるかもしれません。加熱調理法は店の状況によって変わりますが、自分の店の加熱調理技法を並べて、交わったところで新しいことを考えると面白いかもしれません。現実的に自分の店のマトリックスを描くことが大事です。

■何のための「火入れ」のデザイン?(参照:表21)

火入れのデザインをするのは何かを表現するため。「調理の温度」は食材の状態を変えるため。「成分と構造を作る温度」は成分と構造を保つため。「温度の感覚」は温度を感じさせるため。ということで、今日の話は以上です。

表21:何のための「火入れ」のデザイン