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イベントレポート/メイラード反応とは何か?

基調講演 メイラード反応とは何か?

農学博士
川崎寛也(かわさき ひろや)さん

 最初に話したいのは、メイラード反応という、科学の教科書に載っているような用語を、なぜ料理人が理解した方がいいのか、という話です。たとえば、「椅子のデザイン」という場合、デザインはどういうことか。椅子の本質的な意義を考えて、それをプロダクト(製品)化していく。椅子の目的は、座るっていうことですよね。「座る」とは、どういうことかを突き詰めて考えたら、こんな椅子もできますね、あんな椅子もできますね、という意義を本質的にとらえ、それをデザインしていく。料理にも、同じことがいえると思います。
料理人の皆さんは、風味のデザインをやっておられるのです。どんな素材を使って、どういう味付けをしていくか、意識的に、意図的に、こういうおいしいものができるのではないかと、考え、料理する。それが風味のデザインです。昔からやられていることをそのまま行なうだけではなく、その中に意義を見いだし、「おいしさ」とはどういうことかを本質的にとらえるのが、これからの料理だと思っています。
その中で、なぜ科学が重要か。科学は、料理でデザインすることに対して一つのツールを示す。デザインでいうところの絵の具を使うのか、コンピュータを使うのかなど。道具を提供するのが科学の役割かな、と思っています。

では、メイラード反応とは。
 まず、食品科学の分野では褐変現象の一つです。食品が茶色く色が変わることですね。それには、非酵素的褐変と酵素的褐変があります。
リンゴを切ったら表面が茶色になる、リンゴに含まれる酵素が酸素に触れることによって表面がどんどん茶色に変わる。その酵素的褐変を、抑えるためにどうするか。水につけてやる。酸素と触れさせない。酵素が働かなくするとか、塩を入れるなどして酵素の働きを抑えます。
もう一つは、非酵素的褐変。今日はこの話がメインになります。酵素がかかわらなくても褐変するのが非酵素的褐変です。非酵素的褐変には2つあって、カラメル化反応とメイラード反応です。この2つに分かれます。カラメル化反応とメイラード反応は、よく混同されますが、カラメル化反応は糖だけです。砂糖だけです。フレンチでカラメリゼというのは、糖を褐変させることです。150~200度くらいでバーナーで砂糖を溶かす。はじめは匂いがないですが、酸味とか苦味が加わって強い香りがしてくるのがカラメリゼです。

 メイラード反応は、糖だけではないという話を、まずしたいと思います。実感を持っていただくために、肉を焼く場合を見てもらいます。熱に強いガラスの板に肉をおいて、下からガスバーナーで加熱し、下からカメラで撮影します。本来なら肉の焼き色をつける時、引っ繰り返して焼き色がついたとわかるわけですが、そうではなく、焼き色がつく過程を下から見る。
下から見ると、肉汁が出て、どんどん沸騰しているのがわかると思います。沸騰している肉汁が、加熱されて茶色くなる。これが褐変です。焼き色、肉汁が焦げると茶色になるのが実感できます。肉汁から出たものが褐変する。これがメイラード反応です。肉を焼くと、メイラード反応の生成物が出ます。それが鍋側に焦げついたものをフレンチでは煮溶かしてソースにする。肉側につくのが、引っ繰り返してわかる焼き色です。鍋の素材が焦げかつかないテフロンだと鍋側にくっつきにくい。Suc(スュック)ができにくい。鉄だとつきますから、焼き汁を煮詰めるフレンチのやり方ができるのです。

 次に、メイラード反応がおいしさに及ぼす影響を見てみましょう。メイラード反応について、分析は数多くされています。しかし誰も、なぜか、おいしいということをいわない。なぜおいしいのか。それを実験してみます。メイラード反応が起こっている食材。反応の条件を見ていきたいと思います。
調味料にはなぜか茶色が多い。醤油、ソースとか。これが、もしかするとおいしさの鍵になっているのではないかと調べてみたら、メイラード反応を生成していたのです。メイラード反応が起こると、ある食品に対してどんなものでもおいしくできるものなのか。ソースとか醤油とか。茶色の調味料でおいしさに関係しているのがメイラード反応によるものです。

 メイラード反応はどんなものか。<表1参照>左がアミノ酸、真ん中が100度に加熱した時の香り、右が180度に加熱した香り。ブドウ糖とアミノ酸が反応すると100度、180度では刺激のあるチョコレートのような香りがする。食品にはいろんなアミノ酸が含まれている。そのアミノ酸が一緒くたにある食材を加熱するだけで、これだけいろんなものが出てくるわけです。

 ここで、どんな匂いかを体験していただこうと思います(黄色、青色、2種類のサンプル配布)。黄色いシールを張ってあるのがソトロンというメイラード反応の生成物です。ソトロンは、ビール、フランチフライ、ビーフシチュー、焼いたチキン、コーヒーに含まれている香りです。たった一つの香り成分です。青色のシールがフラネオールという別の物質です。嗅いでいただくと、たった一つの香り成分なのに、いろんな匂いを感じると思います。その香り成分が何百種類も集まっているのが食品です。
一つの香りなのに、いろんな連想が出てくる。そこが、匂いというものの難しさではあると思います。回してもらえますか。どんな匂いですか。黄色い方のソトロン、たった一つの化合物です。よくいわれるのが、ソトロンはカレーの匂い。実際のカレーにはいろんな成分が入っています。フラネオールはカラメル、甘い香りです。たった一つの香り成分なのに、いろんなイメージがわく。いろんな食品にこの香り成分が、ごく微量、何十種類も何百種類も含まれているのです。
この香り成分はどんな効果をもたらすのか。それには次のことを思い出していただきたい。味と香りの相互作用です。実感されると思いますが、「甘い匂い」というのは存在しません。甘いのは味です。「甘い匂い」というのは、その匂いによって甘さが連想されるだけなのです。
実験して確かめられています。イチゴの香りに甘味を足すと甘味が増量されたように感じる。醤油の香りによって塩を増強したように感じる。バニラの香りで牛乳の甘味が増強されるように感じることもあります。でも、イチゴの香りにピーナツバターの香りを足すと効果はなかった。これらは、錯覚ですね。こういう錯覚を利用して、人間は料理をしてきたのだと思います。

 以下は、メイラード反応の概要です。食品科学では、アミノカルボニル反応という。科学者でルイ・カミーユ・メイヤールさん、英語読みにするとメイラードになる。この人が20世紀に発見した反応です。“糖とアミノ酸の加熱によって非酵素的褐変と香気成分の生成が起きる”これがメイラード反応です。香気成分にはどんなものがあるか。酸素を含むようなフルフラールとか、窒素を含むフラジールなど、何種類もの成分があります。
肉を焼いたら表面の細胞が壊れます。肉の細胞から汁が流出します。細胞質液に含まれる糖とかアミノ酸が反応して焼き色がつくのがメイラード反応です。

 加熱して茶色くなっている、褐変しているものはメイラード反応だと思っていただいてもいいくらいです。それくらい料理の中に使われています。日本料理だと鰹節の香り、焼き魚の表面、醤油、味醂にも糖とアミノ酸が入っています。味噌も、大豆の色は白いのが、なぜ茶色になるか。赤味噌だと黒くなる。褐変が起こっているのです。フォンも煮込んでいくうちにどんどん褐変していきます。フォンをグーッと煮詰めたらグラス状になります。これも褐変が進んだ結果。中国料理でもそうです。ジャンは発酵に時間がかかりますが、そこからメイラード反応の生成物が出てくる。スープ類、焼いた肉、北京ダックの表面もそうです。北京ダックは強調するために水飴を塗ります。パリッとなると同時に焼き色もきれいにつきます。カレーにチョコレートを入れるとおいしい。インスタントコーヒーにチョコレートを入れるとおいしい。それは、コーヒーの苦味だけではなく、メイラード反応の香りを入れることによって複雑な香りになるのが理由です。人間は複雑なものをおいしく感じる。複雑なものはいろんな栄養素がとれるというシグナルです。
日本料理で醤油を入れる時、火入れの時に褐変が起こります。熟成によっても起こる。フランス料理ではオニオングラタンスープは完全にメイラード反応を味わっているようなものです。時間をかけてメイラード反応を起こしたタマネギは、メイラード反応の固まりのようなもの。そこへブイヨンを入れる。茶色になった最終物質をメラノイジンといいますが、それが茶色の色を出している。炒飯もそうです。最後に鍋肌でさっと焦がす。メイラード反応をその場で生成して、そのものをお客さんに持っていくための技術です。パンの表面もそうです。日本人が焦げたというレベルでも、フランス人は食べられる。フランス人が焦げているなというパンは日本人からすると焦げすぎて食べられない。焼き色の感じには文化の差も出ています。

 メイラード反応は、人間の体内でも起こっています。血液の中には糖があります。アミノ酸があります。体温37度でゆっくりとメイラード反応が起こる。血糖値が高い方はアミノ酸とタンパク質が反応してタンパク質が糖化していく。今、研究が進んでいるのはそこなんです。メイラード反応の学会では、メイラード反応の生成物が血液中で反応を起こすとどうなるか。動脈硬化ですね。血管が硬くなる。そういう研究がされています。

 ショ糖はメイラード反応を起こさないといわれています。しかし、メイラード反応を起こしやすい糖があるんです。ショ糖よりも果糖、麦芽糖、乳糖を含む方が起こしやすい。ブドウ糖を含むものは味醂、果糖を含むものはハチミツ、麦芽糖を含む麦芽、乳糖を含む牛乳は、ショ糖よりもメイラード反応を起こしやすいといわれています。
なぜ砂糖が起こしにくいか。砂糖は一般名称で、科学的にはショ糖、英語読みがスクロース。ショ糖は、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が結合したものです。反応を起こしやすい部分、そこが結合に使われてしまっているので反応しにくいというのが理由です。グルコースとかフルクトースは反応しやすい。食品製造上は問題があったりします。

 フレンチにガストリックというソースがあります。砂糖に酢とかレモン汁を加えて煮詰めたもの。これは最初、砂糖を使います。砂糖そのものはメイラード反応を起こしにくい。ところが酢とかレモン汁は砂糖を加えることによって、ブドウ糖と果糖に分解するんです。昔の人はすごいなと思いますが、それによるとカラメル化だけでなくて、メイラード反応が起こりますからメイラード反応の香ばしい香りがして料理に使われる。カラメル化の香りは甘い香りがしますので、その香りを料理に使うのではなく、酸を加えて分解して、メイラード反応を起こすことで香ばしいものができるのです。

 糖の種類と、メイラード反応とカラメル化反応を比較してみましょう。<表2参照>上白糖は普通の砂糖よりもメイラード反応を起こしやすい。転化糖が含まれているからです。カラメル化反応も両方とも起こしやすい。グラニュー糖は純粋のショ糖ですからカラメル化が起こりにくい。カラメル化は起こるんですが、上白糖に比べて起こりにくい。
加熱終了時に温度が同じでも、弱火で長く加熱したり、強火で短時間加熱した場合と比べ、中火で加熱した方が赤みが強い色調になる傾向があります。弱火でやるか、強火か、中火かで、違ってくる。レモン汁などを入れて酸性にしたり、重曹を入れてアルカリ化にするとカラメル化が起こる。黒糖とか和三盆、三温糖など、転化糖の割合でも違ってくる。黒糖は、もともと茶色いです。ハチミツは、果糖とブドウ糖ばかりですからメイラード反応は起こりやすい。メイラード反応を使うのに利用しやすい。
後の料理実演では、ハチミツとか味醂とかメイラード反応を起こしやすい食材を使うと、どうなるかというのを実演していただきます。糖といってもいろんな種類があって、糖の中のカルボニル化合物の中の還元が大事なんです。

 実は、デンプンとか脂質の酸化した成分もかかわってくる。ということは、ご飯のお焦げの部分もメイラード反応ですし、中華のダシで上に黄色い油が浮いているのもメイラード反応です。ダシと油の界面のところは、油とアミノ酸が接触します。そこでもゆっくりメイラード反応が起こっているのです。アミノ酸だけでなく、ペプチト、タンパク質、脂肪族アミンとかもメイラード反応に使われます。食品成分のほとんどが加熱さえすれば茶色になる。それがメイラード反応ということです。
最後に出てきた化合物が香り成分になって、ここでいろんな成分ができていく。毎日、同じことをやっていても、ちょっと温度が違うだけで、香りが微妙に違うことが料理の場で起こってきます。メイラード反応の副反応がストレッカー分解といって、香ばしい香りが出る。同じように焼いてもいろんな香り成分が出てくるというのがメイラード反応の特徴です。

 反応の条件は、料理人の方にとっては重要だと思います。pH3以上、pHが大きいほど起こります。あまり酸性に近づくと、pH1、2とかの酸性ではレモン汁というレベルではなく塩酸の状態ですが、起こりにくい。料理の段階では、できるだけ中性やアルカリ性で起こりやすくした方がいい。水分が多すぎても起こりにくいし、少なすぎても起こりにくい。水分10~15%、水分活性が0.6~0.8で起こりやすい。
乾燥食品は常温でもメイラード反応が起こります。干した魚、干しぶどうは常温でどんどん褐変します。加熱していないのに褐変します。温度は高いほど起こる。10度以下ではほとんど起こらない。20度くらいになると起こる。味噌などは2年とか長時間かけて褐変させていきますが、10度以下ではない。温度が10度高くなると、反応するのが3~5倍になる。表面温度は150~200度で焼き色がつく。これは実感と合っているのではないでしょうか。

 メイラード反応が起こっている食品の温度と時間の関係を見てみましょう。<表3参照>横軸が時間、縦軸が温度です。グリルは200度で1分。ブイヨンは100度を越えないとメイラード反応は起こりにくい。ブイヨンとかダシは4時間くらいかかるわけです。味噌はどうか。反応温度は20~30度で2年かかります。
例えば、鍋に鶏を入れて加熱します。アミノ酸のうま味成分が30分で出てしまう。1時間あればほぼ出てしまう。それをなぜ4時間も加熱する必要があるか。30分のダシには香りがない、うま味がない。グーッと煮こんでいくことで香りがどんどん出てくる。これがブイヨンとかダシなんです。

 高温短時間と低温長時間では香り成分は若干違います。メイラード反応の調整は難しい。低温料理は60度で2時間、全体がロゼになる。温度が低いですから中心温度が上がるのに時間がかかります。表面でメイラード反応が起こさないといけないので、最初にセジールをしてパウチに入れ真空調理して60度で加熱することをしないと香ばしくありませんから、おいしくない。

 リソレの話ですが、アメリカ人が書いた本「キッチン・サイエンス」では、こうです。焼き付けた肉の表面に形成される皮が水分を通さない。リソレして表面を焼きます。それは水分を通さない、肉汁を逃さないということであれば、ジュージューという音がしない。ジュージューという音は水分が蒸発しているものですから、表面からどんどん肉汁が出ていっている音なんですよ、と。肉汁を逃さないために表面を焼くのは間違っている、といっているんです。ただし、焼き付けによる表面に起こるメイラード反応は風味を増して、おいしくなるのは正しい。リソレという技術は、肉汁を閉じ込めるわけではないが、おいしくするという点では正しい。だから、リソレの意義は、実は肉汁を閉じ込めるわけではなくて、表面が焼かれて香ばしいから、おいしいんだという話です。これが最近の欧米の考えです。

 メイラード反応とカラメル化の違い。今日はまさにこれを体感する料理デモがあるんですが、メイラード反応の香りとカラメル化の香りは違う。メイラード反応には、うま味の香り、花の匂いの香り、タマネギの肉の香り、緑色野菜の匂い、チョコレート、土の香りなど、カラメル化による風味全般が入っている。メイラード反応の中にはカラメル化の香りも入っている。対して、カラメル化の香りは、甘い香り、酸っぱい香り、シェリーの香り、バタースコッチの香り、カラメルの香りなどと、性質が違います。これは後ほどのお料理で味わってみてください。

 最後に言いたいのは、料理で一番重要なことは素材を生かすことです。それはどういうことか。メイラード反応の香りを起こせば起こすほど、ある一定の方向の香りに近づいていく。どんな素材もそうです。10種類の食材を使ってメイラード反応を起こす場合と、20種類の食材を使ってメイラード反応を起こす場合でも、どんどん香りが近づいていって、似てくる。それが、アメリカの焼き物系のソース、バーベキューソースです。アメリカで、料理の雑誌を買うと、グリルの特集ばかりです。どれだけグリルが好きなのか。どんな人でも好きなんでしょう。でも、それって、素材を生かしていませんよね。せっかくいろんな種類を使っても、素材を生かしたものになっていないのではないかと思うのです。

 メイラード反応は、使えば使うほどいいというものではなくて、理解して、適切なものだけ使うのが大事です。やりすぎると素材を生かすことにはなりません。マスキングしてしまって同じような香りになる。下品な料理になってしまう。ガストロノミーにおいては、どれだけ調整していくかが大事だなと思っています。

<表1>

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<表2>

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<表

3>

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