分科会&コンフィデンシャルランチ「魚で考えるサステナブル」

開催日:2020.1.19

Part1:講演

本の魚の未来〜美味・安全・安心な海を漁業と完全養殖でサステナブルに供給する
澤田好史氏(近畿大学水産研究所教授・同大学院農学研究科教授、同水産研究所大島実験場長)
世界と日本の漁業を取り巻く環境の概略とサステナブルなひとつの有効な方法としての養殖についてレクチャーしていただきました。

1:食をめぐる3つの論点

①人口問題

世界では人口増加に見合う食料の確保に危機意識が高まるなか、地球の限りある資源を使って食料をいかに増産していくか問われている。しかし、日本の場合、逆に人口が減る傾向にあり、かつ高齢化が進んで実際に生産を担う働き手が不足するなど構造的な変化への対応が求められている。

②気候変動

気候変動があらゆることに影響をおよぼしてゆく。地球温暖化で海水温度は上昇を続け、その結果、海の熱で成長する台風は大型になり、近年は日本にも頻繁に上陸して農地や漁場を荒らしていく。また、海水温度が1℃上がっただけでも棲息する魚の種類や数は変わってしまい、これまで獲れていた魚介類が不漁という例が各地でみられるなど、農産物や水産物の供給への影響も大きい。

③食料利用の分配

食料は世界で均等に配分されているわけではない。不足する地域があるなか、食料を無駄にすることは許されない。日本では、国をあげて廃棄食料を減らす取り組みが始まっている。2019年(令和元年)「食品ロスの削減の推進に関する法律(消費者庁)」が施行された。これは、生産者だけでなく、消費者も協力し合って食品ロスを少なくしようと求めるものである。

2:漁業の現況と課題

世界の水産量は毎年増えていなければ困る。しかし、内訳をみれば、漁業による漁獲量は1950年くらいをピークにほぼ変わっていない。その替わり、養殖による生産量が増えていて、2016年ついに水産量の50%以上になった。つまり、それだけ養殖の占める割合が大きくなっていることを示す。日本では逆に、漁業・養殖業を合わせた生産量は1984年をピークに減少傾向にあり、ついには最盛期の3分の1程度までになっている。養殖の割合はまだ20%程度しかない。魚の消費量では、国内産と輸入産がほぼ半分ずつというのが現状である。
食料自給率(カロリーベース)40%を割る日本では、輸入に頼るだけでなく、国内の漁業がもっと頑張らなければならないのに、近年はとくに気候変動の影響による異変がみられる。大衆3魚種(サンマ、スルメイカ、アジ)の他、カツオ、サクラエビ、ホタテとか昆布など多くの魚介類がこれまでのように獲れなくなっている。そうしたなか、漁獲を確実にし供給をいかに安定させるかが大きな課題になっている。

3:魚養殖の意義と役割

魚を市場へ安定的に供給させられることで期待されるのが養殖。日本では早くから各地で養殖に取り組んでいて、既に市場に出回るブリ、マダイ、カンパチなど多くの魚種で養殖魚のほうが多いことはあまり知られていない。消費者には天然のものがいいという意識が強いからだ。しかし、よく考えてほしい。農作物のほとんどが野生だったものを改良し食べられるようにして育てたもので、いまや食料になっているのは本来の天然ものとは違う。家畜もそう、繁殖させ育てて食肉にしている。魚の養殖もそうしたことと同じなのである。農業のagriculture(アグリカルチャー)に対し、魚の養殖は、「水」を意味するaquaと「耕す」を意味するcultureを合わせてaquaculture(アクアカルチャー)、水を耕すことと呼びたい。とは言え、人類は狩猟から農耕へと食料生産の技術を発展させながら歩んできた歴史がある。漁業もその歴史に含まれるものの、魚の飼育は古くからおこなわれてはいたが、いまだに漁猟が主体である。日本では、魚の養殖が本格的におこなわれて100年ほどしか経っていない。だから、農作物のように魚といえばすべて養殖にしようというのではない。漁場となる海は地球の70%近くあるわけだし、あくまでも漁業と養殖業を両立させることが前提。互いに補完しあいながら、食料としての魚を安定的に供給させることが大事だと考える。
養殖の流れは以下の通り
採卵(親魚から卵を産ませる)→陸上飼育(卵から3cmくらいになるまで陸上の水槽で育てる)→中間生け簀育成(水槽や海中の生け簀で7〜8cmになるまで育てる、これを種苗と呼ぶ)→種苗出荷(種苗の魚を養殖業者に卸す)→養成(成魚になるまで育てる)
近畿大学では、1965年に世界で初めてヒラメの種苗生産に成功して以来、現在までにマダイ、シマアジ、トラフグ、カンパチ、ブリ、クロマグロなど18種の種苗を各地の養殖業者に提供している。

4:養殖とサステナブル(持続可能性)

養殖の利点のひとつに、技術を高めれば魚の質や味を変えたり品種改良できることが挙げられる。そうして成魚になる数量を増やすことで効率よく食料となる魚を生産できる。世界的に食料をどのように確保していくかが問われているなかで、漁業従事者が減ったり気候変動など環境が変わっても養殖なら持続的に生産できるということが非常に重要になっている。
人口問題、気候変動、環境問題など地球規模の問題を世界で解決しようと、2015年国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が採択された。そこで示された17の目標のひとつに「海の豊かさを守ろう」という目標がある。プラスチックゴミなどで海を汚さないようにするだけでなく、海の資源を守るために持続可能なかたちで利用することを提言している。卵から成魚に育てさらに採卵するという循環させる養殖は、サステナブル(持続可能なかたちでの利用)という点でも有効な手段のひとつであると思われる。ただ天然の成魚を育てるだけでは漁業と変わりなく、ここでいうサステナブル(持続可能なかたちでの利用)とはいえないのだ。

5:サステナブル(持続可能性)であることの意味

いまやSDGsにそった活動をする企業でないと融資も受けられないほど広く認知されているが、SDGsはあくまでも目標にすぎない。我々のように養殖に従事する者には、安心安全という大きなキーワードがある。ひとつが養殖魚の餌に関することで、いまはイワシ、アジ、サバなどの魚粉を主体にした餌で飼育していることをきちんと伝えたい。本日養殖のマダイを提供してくれた「大瀬戸水産」は、養殖業で初めて養殖の日本農林規格(JAS規格)の認証を受け、生産履歴を公表するなど養殖でもいかに安心安全であるかを伝えようとしている。その他、近畿大学では持続可能な人工種苗から育てられた養殖魚であることを認証する「SCSA認証」を取得している。さらに、サステナブル(持続可能性)であるために以下のような取り組みもある。養殖の親魚になるのも、餌にするのも天然の魚であり、養殖するために天然の魚を乱獲することは避けたい。そのため、成魚まで育てられる生存率を上げるようにしたり、餌も魚粉に替わり大豆やトウモロコシなどの植物由来の配合飼料を開発したりと研究を重ねている。肉質を改善することで養殖魚が天然の魚よりも安全な魚にすることも可能となる。また、日本のマグロ漁獲量は世界の4分の1を占める(つまり消費大国でもある)ため、1996年には「まぐろ資源の保存及び管理の強化に関する特別措置法」(まぐろ法)が制定。漁獲する品種や数量、輸入する量を厳しく管理して世界にアピールしているが、国内的にはマグロ資源の維持拡大をはかる増殖技術の開発・普及も推進されている。それに応えるかたちで、近畿大学では2002年クロマグロ(近大マグロ)の完全養殖に世界で初めて成功している。今後は、植物由来の配合飼料で成長させたベジタリアンの近大マグロを世に出したいという目標を持っている。消費者には、そうした海の資源を持続的に利用しようとする供給サイドの努力をもっと知ってもらえるようにしていきたい。

最後に、大切なメッセージを。目の前のいろんな問題に対して、すぐに効果の出せる方法というのはそうない。生産サイド、生産したものを使っていただく加工や調理に携わる人、途中の流通や販売に携わる人、そしてそれを食べる消費者というところまで、すべて連携しないと解決しないと思われる。生産者だけ頑張っても、消費者だけがいくら運動しても、それだけでは無理。これからは皆が連携していってこそ希望が見いだせる可能性がある。それしか道がないと思っていただきたい。本日はありがとうございました。

質疑応答から

会員:養殖の魚は匂いがどうしても気になる。餌が原因なのか、匂いが鼻につくことがあって、そういうところはどういうふうに改善されているか。

澤田:養殖は常に改善できるところが特徴でもあり、おっしゃる匂いというのは新しいものほどよくなっているはず。養殖は、安心安全であることから肉質の改善とか美味しさを追求する段階になっている。本日召し上がっていただく魚でそういうところをぜひ確かめていただきたい。食べ手の皆さんにはいろいろな意見を言っていただくことが、養殖をもっとよくするのに助けになるはず。

参照サイト
世界の漁業・養殖業生産(水産庁)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/t1_2_3_1.html
漁獲量が減少している理由をおしえてください(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0007/04.html
SDGsとは(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
持続可能な開発目標(WWFジャパン)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4087.html?gclid=EAIaIQobChMIot2Xit6h5wIVBLaWCh1WqALcEAAYASAAEgLhHfD_BwE
生産情報公表養殖魚の日本農林規格(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/k0001446.html
NPO法人持続可能な水産養殖のための種苗認証協議会(SCSA)
https://www.scsa.or.jp
食品ロスの削減の推進に関する法律(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/promote/
まぐろ資源の保存及び管理の強化に関する特別措置法
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=408AC1000000101
まぐろ法・早分かり
http://www.oprt.or.jp/pdf/maguro_law.pdf

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