ハグミュージアムイベント「小山進の考えるショコラ〜世界が評価する表現力〜」

開催日:2015.9.1

第3章:小山進のクリエイション

印象的なマリアージュ

印象的なマリアージュで、ショコラを3つ紹介します。3つともパリのサロン・デュ・ショコラで発表される「クラブ・デ・クロクール・ドゥ・ショコラ(C.C.C.)」というショコラ愛好家の会が毎年行っているコンクールに関連したものです。去年、僕は「星付き最高位(ゴールドタブレット+☆)」と「審査員全員が満点を付けたショコラティエのみに与えられる称号」、2つの最優秀賞をいただきました。今年、作品は出品済みで5月に審査は終わっていますが、発表は日本時間で10月30日の深夜です。最優秀賞をとっていれば、5日前くらいに連絡が入るはずです。

■抹茶&パッションのプラリネ

まずは、「抹茶&パッションのプラリネ」で、去年受賞した4番目のショコラです。抹茶とヘーゼルナッツのプラリネを二層にしてプラリネの中に完熟のパッションフルーツのパウダーを練り込みました。どういう意図か。プラリネはナッツのペーストにショコラを混ぜているので水分0%です。パウダーは口の中で唾液と結びついた時に初めてパッションの味がパンッと広がります。今日は1粒を3分の1のサイズに切ってきましたが、縦に噛み切った時にちょっとパッションが舌に当たります、パンッと。酸っぱいものに出合うとその瞬間、人間は無意識にそれを中和させる素材をこのショコラの中から探そうとします。それが抹茶のベースであるホワイト・チョコレートであったり、抹茶の苦味だったり、下のプラリネの中に入っているミルク・チョコレートの甘味だったり、ヘーゼルナッツのキャラメルのうま味だったり、酸っぱさを消そうとする。それが面白いショコラです。上はガナッシュ、つまり水溶性の抹茶ガナッシュ。下は油分を豊富に含んだナッツがベースのプラリネで、油性なので時間差が生じる。二層でいろんなことが口の中で起こります。そういうふうに口の中で風味が立体的に広がるように仕掛けたショコラです。

このアイデアは、いろんな料理を食べていて思いつきました。苦味の中にも酸味や甘味と、縦に重ねる味があったので、面白いことがショコラでもできそうだなと思ったのです。抹茶の料理を食べたわけではなく、パッションフルーツの料理を食べたわけではない。味の構成図、デザインを考えていると、こういうことも思い浮かぶのです。コーティングはミルク・チョコレートです。ビター・チョコレートのコーティングと比べても噛んだ時の食感も違います。口の中での味の広がり方も違う。プラリネはピエモンテ産のヘーゼルナッツ、僕はローストせずにキャラメリゼしてパッションフルーツの酸と合わせるので、あまり強く火入れはしません。それを粒が残るくらいの粗めのペースト状にして、そこにマダガスカル産のクリオロ種カカオを使ったミルク・チョコレートを少し加えて固さを調節しながらパッションフルーツのパウダーを入れます。二層の厚さをそれぞれどれくらいにするか、実験、実験です。2月から4月いっぱいまでは口の中も頭の中も、ショコラだらけです。毎日、毎日、ショコラとの闘いです。

■今年パリで発表する新作の1品

次は新作の2品です。日本では12月から販売する新商品。今年のサロン・デュ・ショコラで初めて発表します。先の作品を食べましょうか。今年出品する際にはいろいろあって、ぎりぎりに決めた2番目のショコラです。春にジョギングをよくするので花の香りとか日に日に変わっていくのを嗅いだ時、花にしようと。いろんな花があるから花のガナッシュをつくって何が合うか。赤いベリーのケーキをお菓子教室の上級クラス受講者のためにつくっていた時だったから、イチゴとグロゼイユ(アカスグリ)を合わせてみて、Wベリーとして生まれた商品です。ミルク・チョコレートに赤いラインが入っているのをご覧ください。印象的なマリアージュです。こういうショコラは温度が5℃上がったりすると正常には味わえません。今回、口の中に余韻が漂うショコラが多い。ふわっと、漂っている時にパンッと刺激を感じさせたい。本来、イチゴはショコラにはほとんど使いません。ホワイトチョコを使って、イチゴのパウダーを入れたタブレットをつくったりするけど、イチゴはあまりにもやさしく幼すぎる印象なのでカカオと合わせた時に特長が出てこないのですね。ところが、グロゼイユのようなちょっと渋味とか酸味がきついものを入れると、イチゴは大人びた、小学校6年生くらいの感じになるのです。そういうところからイメージの写真も生まれてくる。「小学校6年生の女の子の手を撮影して」とカメラマンにお願いする。写真もそうやって見てください。どうですか、新作。いつも1番目はカカオをフューチャーしたもの。2番目はミルク・チョコレートでつくる。3番目はプラリネ。4番目はクライマックスで、一番テーマ性に合っているものをもってきます。

■今年パリで発表する新作の1品

次が、今回の出品作の中でも特に自信作です。じつは、先のグロゼイユに関してもエルダーフラワーとカシスについてもそうですが、不思議なことがありました。今年2月にマンダリンオリエンタル東京に「ノーマ」のシェフ、レネ・レゼピ氏がやってきた。東京で彼の料理を食べた時、2年前からある素材を実験していたのと同じマリアージュの料理が出てきました。そして5月に、コペンハーゲンの「ノーマ」の予約がとれたのでスタッフと4人で行きました。そこで出てきたのがグロゼイユを乳酸発酵させた料理でした。グロゼイユを使った2番目のショコラをつくり終わって行っているから、乳酸発酵したグロゼイユとショコラの関係性にびっくりしたんです。同じようなことを考えているな、と。僕は元々は醗酵食品であるショコラとグロゼイユを合わせたけど、彼は乳酸発酵したグロゼイユの上澄み液を使って料理をつくっていました。結構、同じような考えが同時多発的に起きるんですね。

ハリーポッターのお話の中で最強と謳われている魔法の杖にも使われているのは、ニワトコの木です。ニワトコは、別名エルダーフラワーともいいます。ヨーロッパには、ニワトコの木で建てられた家に住むと呪い殺されるというミステリアスな逸話があります。その怪しげな逸話を逆手にとって、ニワトコの木、つまりエルダーフラワーを使ったショコラは怪しい雰囲気を持っているということを考えながらつくりました。先に召し上がっていただいた新作の1品目はエクアドルのカカオです。花というとエクアドルを思いつくのでそれと合わせました。新作の2品目はペルーのカカオです。カシスは二層になっているけど、下は2〜3mmくらい。上は生クリームの中に、エルダーフラワーのドライを入れアンフュゼ(煮出)し、カカオと乳化させた。カシスは、役割で例えれば、にぎりに付けるワサビみたいなものです。ちょっとしか使ってない。昔からカシスとエルダーフラワーは運命的なつながりがあるものと思うぐらいマッチしていて、カシスのボンボンショコラにはエルダーフラワーのお酒を隠し味に入れることが多かった。それを逆転したショコラです。特殊なカカオに興味をもっている僕の意思が明確に出ている作品だと思います。カカオを選ばないと、こういう味にはなりません。すごく立体的に広がる、かなり大人の味です。この2品は日本では12月に発表しようと思っていたけど、本日は門上さんに頼まれたイベントだから門上スペシャルを入れないと、と思って入れました。以上が印象的なマリアージュの3つです。

発想・着目点

次は、自分自身も思いついた瞬間に面白いなと思ったし、いろんなコンクールで面白いと言ってもらえた着目点が、変わったものを紹介します。

■NINJA(忍者)

2012年に発表したNINJA(忍者)。大好きな漫画「NARUTO-ナルト-」から発想して、これが最優秀賞をとった時、作者の岸本斉史さんからお祝いに絵をプレゼントしてもらいました。自慢です。「NARUTO-ナルト-」を読んでいる人しかわからないけど、“この場面”という絵まで浮かびながらつくりました。そうやって発想はつながっていくんです。カカオはエクアドルのアリバナショナルです。木、植物のつながりだから。樹の薫香をうつすのをショコラで試してみようというところから実験を始めました。これを披露してからヨーロッパでスモークのショコラがえらく増えました。が、どんなカカオでもクーベルチュールでも合うかというと、そういう訳にはいきません。ベネズエラのスルデルラゴでやってしまうと食べられません。煙をつける方法はいろいろと実験した結果、一つの方法に絞りました。エクアドルのアリバナショナルというカカオのミルク・チョコレートを刻み、スモークマシンのボックスに入れ、蓋をして中に煙を入れ込んで薫香を移します。この時にショコラの刻む粗さをいろいろ試し、「何分おいたらスモークのいい香りを抱いてくれるか」という実験の結果、時間を決め、刻む大きさを決め、そのショコラに煙を宿して生クリームと乳化させてガナッシュをつくっています。

■ダブルブラック

ニューヨークの「インターナショナル・チョコレート・アワーズ」で受賞して、今度本選にいくチョコレートです。ダブルブラックなんて、強そうな名前ですけど、2年前から試作していて、これもマンダリンオリエンタル東京のノーマでは、同じ料理が出てきてびっくりしました。カシスと黒ニンニクです。油性のタブレットの中にカシスをどういう形で入れるか。いろんな方法がありますが、これはフリーズドライです。黒ニンニクは特注の高温高圧プレスでフレークをつくってカシスといっしょに入れました。カシスと黒ニンニク、なんとなく合うと思いました。まわりのショコラはペルー産です。カシスも黒っぽい、黒ニンニクも黒で、ダブルブラックという名前にしました。

■一休

僕の代表作に一休というショコラがあります。大徳寺納豆を使ったものです。一休さんが中国から渡ってきた大徳寺納豆を広めたといわれています。ヨーロッパでも味噌とか醤油とか大豆発酵食品が知られていますが、結構、納豆も使われるようになりました。一休が評判になったのは、「うま味」が日本料理とともにヨーロッパに広まっていくタイミングがよかったこともあります。海外のシェフや食通たちはいろんなうま味に出合いたがっています。「インターナショナル・チョコレート・アワーズアメリカ大会」で今年一位になった白腐乳もそうです。じつは5年前に白腐乳がおいしいことを知って、ショコラでできるかと考えていたんですけど、これも特注のプレス加工でフレークにしてもらってショコラと合わせてつくりました。新しいうま味を待っている審査員に対するサービス心で出品したんですが、まさか一位になるとは思っていませんでした。彼らは確実にうま味を待っていますよ。それに応える先駆けのようなチョコレートだと思います。大徳寺納豆がおいしいのは、糖と触れるときだと思っています。糖と触れさせると塩味とうま味成分がいっしょになって、豊かで立体的な味になります。これはコスタリカのカカオです。醤油も味噌も、コスタリカのカカオからテストすることが多い。ガナッシュの中には大徳寺納豆の成分は一切入っていません。ミルク・チョコレートのナチュールのガナッシュ上にポツン、ポツンとおいてコーティングしているだけ。シンプルな重ね味です。フランスのオランド大統領が来日されたとき、「菊乃井」の村田吉弘さんがチームのリーダーとして午餐会の料理を担当され、僕が食後のプチ・フールとしてショコラを担当させていただいたのですが、村田さんが「お前のショコラ、おいしいな」といってくれたのがこれです。「"旨み"がチョコレートに合うねんな」って。それで今、村田さんにチョコレートの開発を頼まれています。3種類。お弁当をテーマにしたショコラです。

プラリネの可能性、水分0%の可能性

今から紹介するショコラは、水分が入っていないから、口の中で起きる時間差だったり、いろんなことを楽しめます。

■プラリネ金柑

まずは金柑です。今年の「インターナショナル・チョコレート・アワーズ」では、二位で予選を通過しています。一位は、僕のもう一個のプラリネです。パリにも出している3番目のプラリネ「日向夏」が一位で、金柑が二位でした(同コンクールにはプラリネ部門では数100種以上の出品があっての一位と二位)。金柑には結構いろんな加工技術を駆使しています。ひとつは、フリーズドライ。それに、高温高圧プレス。もうひとつが、常温真空乾燥からえられた精油です。常温真空乾燥は、真空にすると沸点が下がるので細胞壁を破壊せずに水分を蒸発し除去することができます。金柑自体に含まれている精油を抽出して、それをエキスとしてちょっと加えるのですね。科学好きの方がいいショコラに近づける。そこを面白いと思わない限りは挑戦できません。僕はショコラティエなので「こんなことをやってほしい、あんな素材をほしい」というのを実現してくれるパートナーが必要です。おいしいものをつくろうとする方が日本にはいっぱいおられるので助かっています。なぜこれをつくったか。宮崎県に金柑を、おいしいままで、何か違う使い方ができないかと依頼されたからです。金柑は皮にも糖度があるので捨てるところがない。傷があっても使えるようにするにはどんな方法があるかを考えてつくりました。日向夏も同じで、捨てるしかない皮のところを使い精油をとりました。そういう考え方で調べていると金柑も精油がとれる方法がありました。金柑は、おいしく育てるために「摘果(てっか)」という作業をして、1本の樹の中で半分くらいは小さい実の時に切り取るらしいのです。その状態でも精油はとれるので、捨てるならくださいということになったのです。知らないと、そういう発想にはならない。 金柑のショコラにはヘーゼルナッツです。先の抹茶&パッションのプラリネよりもキャラメルを弱めにしています。デリケートな金柑の香りや酸味はキャラメルが邪魔するので、キャラメル化し始めた時にピンポイントで火入れを止めてつくります。

■P.C.J

2013年、パリのC.C.Cで5タブレットをとった作品です。これはちょっと変わった感じです。塩味のプラリネです。大徳寺納豆も塩味ですけど、それとは違う塩味です。普通のプラリネはミルク・チョコレートと合わせるのですが、これはビター・チョコレートを合わせました。漬け物屋さんで万願寺とうがらしのフリーズドライの漬け物をつくってもらいました。万願寺とうがらしを塩漬けにして水洗いして、それを醤油につけ、さらにそれをドライにしたものです。食べていると唾液によってだんだんと万願寺とうがらしの漬け物が変わっていくさまを口の中で時間差で楽しむという、ちょっと変わったショコラです。これはタブレットにしてニューヨーク、ロンドンにも出品しました。最終的に一位になりました。

この小さい一粒の中にいろんなことができるのがプラリネです。「水分0%の可能性」とタイトルをつけているのも、水分がないから閉じ込められるものの可能性が広がるということです。ガナッシュだと、フリーズドライは中に入れたら水分を奪ってふやけてしまう。口の中に含めて唾液という水分に出合うまでは固く、サクサクしたままでパッとすぐには開かないわけで、口の中でだんだん形状が変わっていきます。どういう味で終わらせるかも自分の中でイメージしながら、そうなるようにカカオを選んだり、コーティングの厚さを決めたりするわけです。大層につくっているように思われるかもしれませんが、実験をたくさんするだけです、簡単にいえば。思った通りにならないこともいっぱいあります。 結構口に残るので、次の試食のために口の中を一度リセットしてくださいね。

本日、食べていただいてないものの中にあるショコラ「こがし醤油」では、うま味を追求しました。日本では、すき焼きにしても醤油を加熱する。醤油の中の糖分がキャラメル化する。つまり、メイラード反応をうまく活用することがおいしいお菓子につながるのですね。 その一方で、ショコラにしたものを、もう一回、パティシエとしての切り口でお菓子に変えることもしています。今年は、冬から「こがし醤油パイ」を出します。こがし醤油は、小山薫堂さんに「下鴨茶寮」で「粉しょうゆ」に出合わせてもらい、これおいしいなと思って、そこからつくろうと始めたものです。

お酒とマリアージュ

これまで、さまざまなお酒のショコラをつくってきました。マリアージュには、ペアリングのマリアージュもあります。カモミール、カシス、日向夏とか、すべてシャンパーニュに合います。結構、意識してつくった部分もありますが、このショコラと飲み物とのペアリングも楽しいのですが、このテーマではボンボンショコラの中にどのように酒を入れるか、というマリアージュを紹介したいと思います。

■GRAPPA「ブリック・デル・ガイアン」

これも今年、ニューヨークで一位になりました。今年4月にソムリエ協会の皆さんの前でショコラ・セミナーをする機会がありました。ゲストにグラッパの会社、ベルタ社の今の社長が来日されていて、僕もベルタのグラッパが好きなので社長にプレゼントするためと、ソムリエの皆さんにも食べていただくということで2種類のグラッパのショコラをつくりました。そのうちの一種類です。ブリック・デル・ガイアンという、マスカットを原料としたワインを搾汁したあとの皮を蒸留し、樽熟成したグラッパに合わせたショコラです。これがニューヨークで一位になったので、ミラノ万博でショコラ・セミナーをした時、ベルタ社の社長にオーベルジュへ招待していただき、グラッパをいっぱい飲ませていただきました。グラッパはワインをつくるブドウの搾りカスです。ブドウ丸ごと使ったらグラッパとはいいません。皮の部分だけを使って初めてグラッパですが、特に樽熟成のものはアールグレイのような香りがします。香りを嗅いだ時に「エクアドルのアリバナショナルでつくりたい」と思いました。
召し上がってください。お酒のショコラは口溶けがいい、なめらかに感じます。普通、生クリームで乳化させるところ、生クリームを手前で止めて残りの水分をアルコールに代えているから粒子が細かいんですね。非常になめらかです。シャンパントリュフを召し上がられてもなめらかに感じる。粒子の細かい液体が入っているからと理解してください。グラッパを飲んだ時にウワッと底を這うような香りを、余韻としてショコラを食べて感じてほしい。大好きなショコラです。アールグレイのような香りがしませんか?これを、お菓子(アントルメ)に変えるときにアールグレイのウィスキーを使ったりすると結構バシッと決まるんですね。根底に何があるかを知ることは中身の濃いお菓子を生み出します。何でもいいから使うのではなく、自分が何となく感じたことを突き詰めて考えると、そこにある理由が見つかったりする。そうすると、オリジナリティのあるお菓子が生まれます。ショコラでいうとカカオの産地、クーベルチュールを選び抜くということです。

■スモーキー

スモーキーは、2011年、初めてフランスでショコラを発表した時に最優秀賞をいただいた作品です。フランス人シェフにこの作品の何が面白いといわれたか。ピエール・エルメさんにいわれたことが印象的です。「ウィスキーのショコラはつくったことはあるが、ラフロイグを選んでそれとフランボワーズと合わせたものは初めてだ」と。確かにそうだと思います。ヨードチンキと呼ばれるぐらいのものとフランボワーズを合わせるわけですから。僕の中では、ラフロイグにはフランボワーズのペアリングだったんですね。これはマダガスカルのカカオです。ウィスキーの部分に植物を感じるからか、よく登場しますが、エクアドルのアリバの品種もよく使っています。「樽」という元は植物である「樹」から生まれたもののイメージで選んでいるかもしれません、パッと思うんです。これはアリバやと。何故かと考えると、いろんな理由が見つかるのですが、つくっている時はそこまで深く考えていないかもしれない。これもすごく大好きなショコラです。ラフロイグは塩味を感じる。ウィスキーには麦に潮風があたって塩が付着するのか、塩味が結構あって、ショコラとよく合うような気がします。

コーヒーとマリアージュ

今、僕が夢中になっているのは、コーヒーです。コーヒーは基本的に水分です。水、お湯から抽出します。ガナッシュは基本、生クリーム(35%)で抽出させます。ということは水より粒度の粗いものでコーヒー、紅茶を抽出しないといけない。つまり、生クリームは水に比べれば素材に浸透しにくい水溶性物質であるということです。ロイヤルミルクティはお湯で抽出した後、そこに牛乳を足していく。まずは水分が素材に入り込まないと抽出できない。ボンボンショコラは18℃から20℃の保管で1カ月の賞味期限。なるべく水は使いたくない。35%の生クリームでどうコーヒーの香りや味の特長を抽出するか実験した結果、たどりついたのが、ガストロバック(低気圧調理器)です。バニラもそれでやっているんですけど、これは面白くて、どんな温度でもいろんなパターンを楽しめます。ちなみに、このコーヒーはガストロバックを使って抽出しました。これを使ったのは2番目のショコラです。

■インドネシアカフェ(ライチ&フランボワーズ)

インドネシアカフェとフランボワーズというのは2年前にインドネシアへマツモトコーヒーさんと行った時、マンデリンのコーヒーを飲んで「これ、ライチの香りがする。これと、ライチと木いちごをマリアージュさせたら絶対いいショコラになる」と話したことから始まって、帰国後すぐにつくったショコラです。賞をとらせてもらいましたが、審査員にすると「なんでライチとコーヒーなんや」と、不思議そうでしたが、酸味のあるコーヒーはそういう表現の仕方ができると思うのです。いろんなコーヒーを飲むと「こんな産地のこんな酸味のカカオと合わせる」というマリアージュの可能性を感じて、今回、4種類のショコラとカカオのマリアージュのセットを冬に発表します。ものすごくおいしいです。合うんですよ。コーヒーのもっている酸とカカオのもっている酸がうまくマリアージュしていて。これは去年発表した作品ですが、「インドネシアカフェ&ライチフランボワーズ」を召し上がってください。やさしいショコラです。

ものすごく面白かったのが、ショコラ・セミナーで「カカオ水」というものを出しています。蒸留器でフィルターに軽くローストしたカカオニブを入れて下からお湯の蒸気を通して、最後に冷やして再度水蒸気をポトポトと液体に戻す。そこに砂糖をちょっとずつ入れてパンッとおいしさが開く瞬間はカカオのタブレットの話といっしょで急に変わる瞬間を知っていただけるようお客さまに最後にお出しします。それを「インターナショナル・チョコレート・アワーズ」の主催者の一人である人が飲んだ時、「これ、ヴァローナさんにいうとけばいいな」とボソッといわれたんです。「ヴァローナのカカオ豆」というてないのに。ヴァローナのカカオ豆をカカオニブに使っていたんです。「麻袋のいやな香りがするからいってあげた方がいいよ」。麻袋の香りが見つかるまで探しました。わかったような、わからんような、彼はそれぐらい完璧な味覚を持っています。彼はすごいベジタリアン。ここに到達するには僕もベジタリアンにならないとアカンのかなと。 ライチとフランボワーズとコーヒー。酸味をつなぎ合わせました。ツートンです。口の中で初めてコーヒーとフルーツが出合う仕組みをつくっています。

■カフェブルーナイル

最後です。エチオピアの「ブルーナイル」という、コーヒーについては後で松本さんから説明していただきます。コーヒーも皆さんに飲んでいただきます。ブルーナイルの酸味がどのカカオを合うか、考えてみたらペルーだったんですね。ピウラという地域のカカオと合わせたいと思いました。召し上がってください。1層のショコラです。シンプルなものです。これもガストロバックを使いました。酸味でつないでいます。今までコーヒーのイメージはベネズエラ系のカカオと合わせた方がいいというイメージでしたが、さまざまな酸味と合わせることによって新たな印象的なやさしいコーヒーのボンボンショコラができることがわかってきたので、もっといろんな品種とのマリアージュが楽しめるなと思っています。それでは松本さんを呼びましょう

松本 真悟さん
株式会社マツモトコーヒーは、父の現・代表取締役、松本行広さんが1993年、神戸市に創業。現在は主にスペシャルティコーヒーを専門に全国200店以上の自家焙煎店やカフェに生豆や焙煎豆を販売。松本真悟さんは、大学卒業後、UCCに入社、2003年にマツモトコーヒーに転職。その後、ブラジルに渡り、珈琲鑑定士の資格を取得、昨年からはスペシャルティコーヒー買いつけ担当として各生産国に足を運んでいる。

松本 エチオピアのブルーナイルは、スペシャリティコーヒーで一番注目されているといっても過言ではありません。エチオピアのイルガチェフェという有名な地域ですが、そこで赤いチェリーを摘み取って乾燥工程に入るのですが、通常は果肉を除去して、なるべく安定してつくれるように乾燥させるのを、あえてチェリーをつけたままフルーツの甘みを豆に移行するようにナチュラルという精製法をとっています。

小山 結構、僕はたくさんナチュラルを選んでいますよね。なぜかというとカカオと合わせる時は同じつくり方(カカオの場合は「醗酵」の工程がありますが、果肉が付いた状態で乾燥させる点)の方が合うと自然に思っていると思うんですね。カカオのつくり方といっしょのものを選んでいるような気がします。僕がこういうコーヒーをショコラにつなごうと思う瞬間は、冷めた状態のコーヒーを飲んで決めます。温かいものではありません。放置して冷ましておいたものです。なぜかというと、ショコラの中に存在するコーヒーは温かい状態で存在するわけではなく、完全に冷めきった状態のものが中で存在するわけですから、熱いのと冷たいのでは印象が変わる。印象にあるのは思い切り冷蔵庫で冷えた状態より室温のものがわかりやすい。誰かにそうしろといわれたわけではなく、経験的にそう思っただけですが、それに関しては?

松本 今回、ご用意させていただいているのも熱々ではなく、すぐに飲んでいただける温度になっています。冷めるにつれて今まで見えなかった酸味が出てきたりしますので。ぜひ冷めてからも飲んでいただきたいと思います。味の特長としてはライチのような甘味とフランボワーズのような酸味、ミルキーな甘味が口の中で持続する、後味にすっきり感を与えるコーヒーになっています。

会場から質問 このコーヒーはいつ焙煎して、いつ引いた状態で出されているのか教えてください。

松本 焙煎は2日前にさせていただきました。グラインドは抽出する直前、先程にしております。焙煎直後になると炭酸ガスが含まれているので抽出自体をガスが邪魔して本来の成分が取り出せないので、あえて1日袋に詰めた状態で寝かせてガスを抜いた状態で抽出しやすいようにしています。