ハグミュージアムイベント「小山進の考えるショコラ〜世界が評価する表現力〜」

開催日:2015.9.1

第2章:カカオの世界~ブレンドとシングルオリジンの違いを味わおう~

まず、これはメタテといいます。古代メキシコ文明で使われていたのはこういう石だったろうなと文献を参照しながらつくりました。昔の人はこの石で、火で炙ったカカオを磨りつぶしていたのです。本日はまず、ショコラショーを飲んでいただきます。昔、カカオはお金だった、また、飲み物だった。コロンビアのショコラ店では、このショコラショーが出てくる。スーパーではいろんな種類のショコラショーの元を売っています。バニラ、ブラックペッパーとかシナモンを入れたり。昔、よく使われたのが、アチオテという赤い色素を持った香辛料。後で香りを嗅いでみてください。カカオは110~120℃の温度でローストします。こういうメタテでつぶしているとカカオバターが溶けだしてペースト状になります。素晴らしい香りがします。ショコラの香りになってきました。ずっと続けていけば、ねとっとなってきます。粒子の細かいのがカカオマスです。昔はこれをお湯で溶いたりして、モリニーニョという攪拌棒を筒に入れて、泡を立ててえぐみをやわらしくして飲んだのではないかと思われます。今から厨房で温めたショコラショーをお配りします。結構、濃いめです。 (クーベルチュールの試食へ……)

ブレンドの強み

■グアナラ70%

まずは、グアナラ70%を召し上がっていただきます。ヴァローナの商品です。いろんな地域の“ブレンド”です。南アフリカ、中南米、年間通して同じ味にするために、いい比率でブレンドされているものです。食べる時は鼻に近いところで香りを楽しんでください。楽しんでから口の中に入れます。2,3回噛んでください。ショコラは、食感もそれぞれ違う、一言に「ビター」と言ってもそれぞれ違う。どんな歯ごたえなのかも大事だと思って2回は噛む。あとは舌の上で溶かしてください。カカオ分70%同士で比べるとすれば3つ目のスル・デル・ラゴ70%、砂糖の量が同じですね。60何%ではカカオ感はないのか。そんなことはない、ということを証明したいのと、ブレンドとシングルオリジンの違いを今日は楽しんでいただきたいと思います。ショコラショーが配られた方は次のショコラを食べる前に飲んでください。このショコラショーは“シングルオリジン”です。ペルーのピウラという地域で採れたホワイトカカオだけでつくっています。皆さんがイメージされているようなショコラですかね。どんな感じですか?思ったよりも酸味があるはずです。

もともとカカオは醗酵食品であり、元はおいしいフルーツです。何に似ているか。ライチとマンゴスチンを足して2で割ったようなおいしいフルーツです。カカオポットに数十個の白い粒が入っています。中種にギューッと詰まっていてそれぞれの種の周りには繊維質の果肉がまとわりついている感じで、ポンッととれるものではありません。それに、醗酵するのは糖分があるからなんですね。どのように醗酵させるか。木製のボックスが3段になっていて、一番上に果肉実がついたまま入れます。バナナの皮とかビニールシートで覆って、空気を遮断させます。そこからホワイト・カカオは2,3日の短い醗酵までで終わらせます。一般的なカカオは通常ほとんどが4,5日、長くて1週間くらい醗酵させるんですけど、空気遮断のアルコール醗酵、次のボックスに入れる時に空気に触れさせてアルコール醗酵を止め、酢酸醗酵に移します。ボックスでの醗酵がすべて終わってから乾燥させるわけです。天日干しが理想ではありますが、中には、雨の多い地域、資金力がないところもあります。薪火で乾燥させたり、ガスや電気とかいろいろですが、薪の燻香が宿ってスモーキーなカカオ豆になるところもあります。皆さんに飲んでいただいているのは、比較的カシスとかと相性のいいカカオです。濃いめですけど。砂糖は35%入っています。なぜなら、酸味が際立ったカカオだからです。これくらい入れた時に味がパッと変わる瞬間がえられます。グアナラは召し上がっていただきましたか? お店では普通にお菓子に使っています。ただ、おいしいショコラではありますが、このショコラでカカオを強調させたいボンボンショコラはつくりません。「横にはみ出すもの(特徴)」がないからです。僕が使っているショコラは、学校でいうたら問題児です。それくらいでないと特徴がでないというものを使います。

シングルオリジンの強み

■チャンチャマイヨ63%

次は、問題児を食べてもらいましょう。チャンチャマイヨ63%、これはペルーのチャンチャマイヨという村のカカオです。63%だと、70%よりも砂糖が多く入っている。大好きなクーベルチュールです。カカオ・エキスパートたちは、食べた瞬間にパッと「何々のようだ」と表現します。「花のような感じ」「フルーティな感じ」「スパイシーな感じ」「キャラメルのような感じもある」など。感じたことをいろいろなものに例えて表現する習慣のない我々はそこから勉強し直そうと思っているわけです。どうですか、グアナラと比べて。チャンチャマイヨはブレントではない。地域のカカオだけでつくった“シングルオリジン”です。個性がはっきりしている。こういうものと生クリームを合わせると、しっかり特長が残り、他にないものが上がってきます。カカオフルーツのような水溶性の物質には、タブレットとして油性の状態にした時、フルーツの種の中にはあった特長が、一瞬、奥に引っ込んでしまうことがあるようです。それは、カカオの産地で仕事をしている人たちに僕のボンボンショコラを食べていただいたりするとわかる。「心配していたけど、よかった。残っているね」といわれると、僕たちの仕事はそこにあるんだなと、再確認できます。

■シエラネバダ67%

次は小方真弓さんにつくってもらっているクーベルチュール、シエラネバダ67%です。小方さんのシエラネバダとは、醗酵のさせ方やブレンド、コンチングのさせ方など、根本的なつくり方が違います。なぜなら、僕はショコラティエ、原料を使ってボンボンショコラにするのが僕の主な仕事なので、荒々しいまま、その特長が水溶性になったときにでも残るようなところで僕のリクエストに応えてくれるからです。毎年、コロンビアの小方さんの工房まで行ってチェックして「もう少しこうしてほしい」と彼女にリクエストして、僕好みの味にしてもらう。これも“シングルオリジン”です。カカオハンター小方さんのシエラネバダを食べれば、違うことがわかると思います。67%なので33%の砂糖が入っている。簡単に計算できます。

僕のボンボンショコラの多くは二層に分かれています。となると、例えば今の温度から5℃上がってしまうと口の中に入る前にゆるんでしまうから、口の中で初めて二層が一つになるために本来はこの温度、18℃で家でも召し上がってみてほしい。これがベストです。シエラネバダはチャンチャマイヨと同じような酸味があるけど、赤ワインのタンニンのような感じもしませんか。好きなショコラです。2012年と2014年、最優秀賞をいただいたショコラです。「わがままな女性」という表現の仕方をするんですが、わがままな女性をおおらかに包むように、コロンビアのトゥマコという地域のソフトダンディな感じのショコラを重ねあわせています。単にえぐみのあるタンニンの効いた状態でコンテストに出しても優勝はしません。僕は突出して何かが残るものを選ぶ、生クリームとあわせて砂糖を入れた時にどういうものが残るかを想像してつくっているからです。最近でこそ、コーヒーをブラックで飲めるようになりましたが、2年前までは砂糖と生クリームを入れないと飲めなかった。日本では、コーヒー屋さんに「ストレートで飲んでよ」といわれていましたが、コロンビアでは褒められました。コロンビアの人たちは日本人より甘いコーヒーを飲んでいるんですよ。「カンペシーノ」というすごい酸味のあるコーヒーにシナモンと砂糖を思い切り入れて飲むんです。その酸味が砂糖によって花開くんです。「こうしないとわからへん」というと「その通りだ」と。そこでどの特長がほしいかは、あなたが判断しているといわれました。

■スル・デル・ラゴ70%

最後はスル・デル・ラゴ70%です。シングルオリジンの3種類の中でも一個だけ特長が違います。まず国が違います。チャンチャマイヨはペルー、シエラネバダがコロンビア。次がベネズエラです。ベネズエラのカカオは、口の上にじとっと残るような、ナッツを食べた後のような感じが上にまとわりつくような、えぐみ、渋味が残ったりするものが多い。スル・デル・ラゴ、召し上がってください。これも日本では僕しか使っていません。フランスの小さな原料会社から取り寄せています。口に入れた瞬間に違うでしょう。ナッツと似ている。これは70%ですが、なぜ30%で砂糖を止めているか。酸味が際立っているわけではないからです。ここに何%か足していくと急に甘くなる。糖が先に出てしまう。どうですか、3つ比べて。全く違うのは、この3番目ですかね。

本日はカカオやショコラって一括りで括れるわけではないということを体感していただけたらと思います。僕は「こういう菓子をつくりたい」と思った時、どのカカオを選ぶかを80種類のクーベルチュールの中から選ぶんです。表現の選択肢は多いので面白いです。ちゃんとわからないと選べないし、仮説を立てて正解かどうかは、最後できあがったものを確認するわけですが、後でいろんなものが出てくるので「これはこういうイメージでつくりたかったからこの産地を選んだ」という話を交えて、次は僕のクリエイトの世界に入っていきたいと思います。