ハグミュージアムイベント「小山進の考えるショコラ〜世界が評価する表現力〜」

開催日:2015.9.1

第1章:はじめに〜ショコラづくりに大切なこと〜

知識・技術・味覚

チョコレートを(世間でも一般的に)“ショコラ”と呼ぶようになり、日本も今や「考えるショコラ」という題目で僕が皆さんの前で話ができる時代になってきました。僕は「カカオティエになりたい」と考えているパティシエ・ショコラティエです。そのなかで、僕は今、「カカオから物事を考える難しさ」に直面しています。それは、どういうことか。毎年、産地を訪れて新しいカカオに出会うたびに知らないことだらけであることを知り、50歳になった今も、まだまだ勉強しなければいけない課題が目の前に大きな壁として立ちはだかっていることにワクワクしています。

カカオの品種や産地のことは2、3年前だったらすらすら自信満々でいえましたが、今はドキドキしながらしゃべっています。なぜなら、そんなに簡単なものじゃないからです。深すぎる。パリの「サロン・デュ・ショコラ」では何年に一回か、カカオ豆を評価するコンテストがあります。その審査員を2年前にやらせていただいた時、自分の表現力のなさにある意味ショックを受けました。例えば、酸味には20種類、苦味には30種類の表現の仕方がある。「嘔吐物のような酸味」といえばマイナス要素だと思いますよね。けれど、ポジティブ要素のプラス評価で「嘔吐物のような酸味」という評価基準があるのです。そういうこともすべてわかるようになれば、どれほどショコラの可能性を広げられるか、ワクワクしている。そこまでいきたいし、いけなかったとしても誰かにつなげたい。日本で将来、「カカオ」をわかっているショコラティエやパティシエが生まれるように、できる限り最後までやり尽くしたいという目標があります。本日は、今の段階で僕が知っていることを話します。

カカオ豆を焙煎してペースト状にし、練り合わせたものをカカオマスといいます。カカオマスにカカオ自体が一番いい状態に輝く分量の糖分を入れていきます。砂糖を全体量の35%を入れた時にパッと味が変化したとしたら、「65%カカオ」ができあがります。30%入れたところでおいしくなったら70%カカオです。「私は80%カカオしか食べない」という人がいれば、「甘いものが苦手なんや」と解釈しています。“カカオ感”のあるものはカカオ%が高いことだけではないことを、まず皆さんにお伝えしたい。たとえば、レモンの果汁を帆立貝にかける。なぜか? 帆立自体が甘みを持っているからですね。酸味と糖は密接な関係があり、酸味がポジティブに働くには、ある程度の甘さが加わってこそ、花開く瞬間があるんです。それが糖分の%であり、その裏側がカカオの%であると解釈していただければいいと思います。

「エスコヤマ」には80種類のショコラ原料があります。その内25種類は個人輸入しています。(日本に輸入されている)既製品だけでは面白くなくなり、表現の幅に限界があることを感じたからです。第2章で食べていただくタブレット(板チョコ)やクーベルチュールの中には、日本では僕しか持っていないカカオでつくったショコラもあります。そういうものを食べていただいて「あ、ショコラってこういうことなのか」と、そういう気づきを積み重ねていき、皆さんも一歩ずつ前に進んでいただければ、新しい可能性をさらに披露することができると思います。「つくり手」と「食べ手」の関係が少しずつ向上していけばいいなと思っています。ショコラづくりに大切なことはお互い勉強することです。

タブレットショコラはカカオバターを含んだ「油性」の食べ物です。タブレットを口に入れてからの一番目の楽しみ方は、唾液の水分と油性のものが未乳化の状態でねっとりと口の中にまとわりついている状態です。香りを嗅ぐ、タブレットを口に入れる。舌の上で溶ける、ねとっとした感じを心地よく感じますね。それは中華料理店で、店内に香りが充満している時とよく似ています。中華料理は香味油、例えばネギ油とか素材やスープを入れて乳化した瞬間、ふわっと店内に香りが充満する。それによく似ています。

これから食べていただくボンボンショコラは2種類あります。ひとつは、「プラリネ」です。熱した砂糖にナッツを加え、キャラメリゼしたものをフードプロセッサーでペースト状にする。プラリネは必ずしもキャラメリゼする必要はありません。ナッツをそのままで足らない糖分を入れてショコラとあわせてもプラリネといいます。基本はこちらもショコラと一緒で「油性」です。つまり、プラリネは水分が限りなく0%に近い状態です。口の中ではタブレットと同じようなことが起きます。

もうひとつは、「ガナッシュ」。ショコラに、「ある水分」を入れて乳化させ、水溶性の物質にして固めたものです。溶ければすぐに味蕾にたどりつくから、味わう時間が速い。それで、コーティングが重要な要素になります。コーティングも薄いと効果はないですが、適度な厚みは必要だと考えます。余韻は、コーティングに使うカカオのレシピで決まってくる。ボンボンショコラの油性の部分はコーティングだけなんです。タブレットの溶けてねっとりした感じ。ボンボンショコラではコーティングが唾液と結びついて初めて水溶性の物質になって感じる部分ですから、最後に口の中のすべての水溶性の物質がつながって余韻として長く引っ張れるかどうかはコーティングが重要なのです。

発想について

ボンボンショコラで大切なのは、その他にもいっぱいあります。一日話しても足りませんので、要所をお話します。ショコラをつくるだけではなく、「何を切り抜くか」が大事だと思います。日常生活で何にアッと思うか、何に感動するか。何かを面白いと思うか。面白いと思ったことを形にする技術が製菓技術だったり、味覚だったりするわけです。製菓技術と味覚があったところで、面白いことを切り抜けなかったら面白い作品はつくれません。僕は1年間、日常生活の中でものづくりの発想のタネを拾います。面白いなと思ったら、面白いものができます。それは何に似ているか。例えば、小学生の時、友だちの前で言うギャグとか、すべった経験があるからすべらないようにしようと思うし、こういうことを言ったらウケるとか、それに似ている。スタッフには「すべらない話のようなケーキをつくれる人間になれ」と言っています。芸人さんがどんな順番で誰が話しても、すべてウケる、それは特別なことではなく、日常生活にある物事に着目してそれを伝えることなのです。本日用意した作品は、すべて僕が「面白いな」と思った自分勝手な一部を皆さんと共有しようと思って持ってきただけなのです。「アッ」と思うことを常にインプットして、それを形に変えるためには、ショコラの場合は「まずはカカオを知ること」というだけです。

2011年からパリのコンクールに出品していますが、毎年5月が提出月で各賞の発表が10月なんですね。パリで発表したものは日本で12月に販売します。試作期間はバレンタインが終わってから4月いっぱいまで。2カ月試作して製品にする。アイデアを考えるのは1年中です。今は何のアイデアを集めているかというと、2016年のコンクール用のアイデア集めをしています。本日召し上がっていただくのは、今年パリで発表する新作も入っています。

去年も今年も120くらいのアイデアをためました。試作を始める2月15日までに、全世界から、いろんなカカオからつくったクーベルチュールを集めます。その中にはヴァローナなどの既製品や小さな原料会社からいただくものもある。エクアドルから、アメリカから、コロンビアから。ボイスレコーダーを横において、感想を録音しながらテイスティングするわけです。「何々のような味がする」「こういうものと合いそうだ」「めちゃめちゃええ◎」などと。50種類くらいやって、そこから落としこんでいくわけです。今度はネタ帳を見ます。中には「緑ってすごい」と書いてある、わけのわからない言葉もあります。それはどんなシチュエーションで思ったか。3月にジョギングしていて、芽吹いたところの緑は金色に見えた。常緑のものはもっと深い。1週間たてば違う緑色に変わった。影になっていると違う色に見える。そういうことをメモしておく。そうすると緑色のチョコレートがつくりたくなる。そんな感じです。ネタ帳の言葉とクーベルチュールで感じた味が合致した時、一個の作品になることが多いです。ショコラづくりに大切なことは新しいクーベルチュール、新しいカカオを舌で感じることと常にいろんな気づきの扉を開けていること。それは多分、いろんなジャンルの創作にも必要なことだと思います。

話は変わりますが、先日、コロンビアに行ってきました。カカオの産地はエクアドル、インドネシア、マダカスカル、ベトナムは行ったけど、まだまだ行きたりません。ベネズエラにも行きたい。いろんなところへ行くと、土地、土地のカカオの味が全然違うとわかってきます。コロンビアといっても一括りではない。そういうのを知れば知るほど自分が無知であることを痛感します。その経験を重ねてクリエイトしていきたいと思っています。

今回のコロンビア訪問で、勉強になった話をしましょう。新大陸を発見したコロンブスと、アステカ帝国を征服したコルテス将軍がスペインにカカオを持ち返ったといわれていますが、そこからヨーロッパ全土に入って、日本にも入ってきました。しかし、その背景にあること、裏側のことを考えていなかったのですね。スペインの侵略によってカカオとともに生活していたインディオたちが奥地に追いやられた。今、それを取り戻そうとしてホワイト・カカオ(カカオ・ブランコ)やその他のカカオを自分たちの手で醗酵・乾燥まで手掛け、やっと創り上げたクーベルチュールがあります。それをカカオハンター小方真弓さんの協力のもとで僕がショコラに使わせていただきました。今回、パリのコンクールに出品したうちのひとつ、根底に「取り戻す」という思いの込められたショコラです。今年は大事なことを知ることができました。第1章はこれくらいにして、実際に食べていただきましょう。